忍者ブログ
絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
[433] [432] [431] [430] [429] [428] [427] [420] [426] [425] [424]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

野分はヒロさんの過去をどう捉えるだろうかという話。

「続きを読む」からどうぞ。

拍手[1回]


+ + + + + + + + + +
全部が欲しい、と野分は言った。


始まりはいつもの野分のタワゴトだ。
二人で一つのベッドに潜り込めば、野分は俺の髪を梳きながら聞いている方が恥ずかしくなるような言葉を投げ掛けてくる。
ヒロさんは可愛いだの、ヒロさんが好きだの、息をするように野分はそう繰り返すのだ。
普段はそれに俺が怒鳴ったり無視したりでフェードアウトするのだが、その日は少しタガが緩んでいたらしい。
野分は俺の頭を撫でるだけでは飽き足らず、その大きな腕で俺の肩ごと抱き込んだ。
俺の抗議の声は野分の胸板に押し潰されてしまった。
そして野分はため息まじりでこうつぶやくのだ。
「時々とても怖くなる」と。
「なんだそれ。どういう意味……。」
幸せ過ぎて怖いなどとふざけたことをぬかしたら、このまま顎に頭突きを食らわせてやろうかと思ったが、野分の口から出てきたのは震えを含んだ声だった。
まるで自分で自分の言葉を持て余しているような声に、思わず俺の動きも止まる。

「俺はヒロさんの全部が欲しくて、その気持ちに終わりが見えなくて怖いんです。」
そのまま俺の身体をあやすように抱き直した。
「全部って……。」
「全部です。ヒロさんの今も未来も過去も全部。」
過去、と言われたときに少し動揺してしまったのに気付かれただろうか。
俺の心配をよそに、野分は俺の身体に手を置いたまま虚空を見つめている。
俺の不安げな表情に気付いたのか、野分は急いで軽く笑って見せた。
「……すみません、忘れてください。」
そう言うと俺を枕の上に丁寧に寝かしつけ、口元まで布団を掛けられた。
掛け布団の上からもまた野分の腕が伸びてくる。
頬摺りをするように耳元まで顔を近付けると、吐息のような声が聞こえてきた。
「ヒロさんが許してくれるなら……。」
一つだけキスが下りてくるとその後はもう寝息に変わってしまい、言葉の続きを聞くことはなかった。
健やかな野分の寝息を感じながら、俺は息を詰めた。

野分は言ったのだ。

俺が許すなら、俺の過去も未来も今も、全部欲しいのだと。


※※※※※



許す、許さないといった概念は難しいように見えて、実は様々な場面でよく使われる言葉だと思う。
子供同士の喧嘩では、泣きながら謝っても許さねーからな!と叫び、
昼ドラではヒロインの敵役が、あの女は一生許さないと爪を噛み、
教会では神が罪深い人々に対して許しを与えると説き、
今もどこかで法律の前に許される人間と許されない人間が判決を下されてゆく。
年端もいかない子供が許さないだの何だのとわめくのは、ちゃんと『どうすれば許されるのか』を知っているからだ。
それは単純なことで、適当な人間が一言許すと言えばいい。
動物に対する「待て」のようなものかもしれない。
理屈は難しいかもしれないが、そのプロセス自体は簡単だ。

それを思うと俺と野分の夜の生活は「待て」と「よし」の攻防戦だ。
あいつのおねだりは下手に出ているように見えて、それはそれは性質が悪い。
完全に俺が最終的に許してしまうのを見越してのおねだりなのだ。
「ヒロさん、いっしょにお風呂入りましょう。」から始まり、
「ヒロさんに××を××して欲しいです。」とか、
「××でヒロさんの××を××させてください。」とか、
伏せ字上等な台詞がどんどん飛び出してくる。
そのたびに俺は殴ったりどついたりして叱るわけだが、結局は野分の要求を全部受け入れてしまい、涙まじりの声で喘ぐハメになるのだ。
情欲を含んだ野分の眼差しや、情けないほど与えられる快楽に弱い己の身体など、言い訳は色々挙げられるけれど、
とにかく最後には野分に言われるままに唇を寄せ、脚を開き、身体を横たえて野分に貪られるのを待つのだった。
野分の熱を受けとめながら、古めかしい言い回しだけどなるほど肌を許すとはこういうことかと頭の片隅で考える。
この手の要求を受け入れることを遠回しに『許す』と表現するのも納得だと、散々野分に抱き潰された後にぼんやりと思うのだった。
我ながら野分に甘いこと、この上ない。

野分は野分で、俺に身体を許してもらっていると認識しているのだろうか。
確かに最初は迫る野分に俺が応じる形だったような気もする。
だけど本当に俺たちの関係を、野分が求め俺が許す関係だと言ってしまってもいいものか。

……俺はそんなに大層な存在ではない。

まあ、当然である。
あいつは若いから多少がっつき過ぎなところはあるかもしれないけど、俺が一方的に与えているなどという傲慢なことを考えたりはしない。
俺のことを好きになってください。
キスしてください。
俺といっしょに引っ越してください。
野分の言葉はしばしばこうやってお願いの形をとるけれど、むしろ、と俺は考える。

むしろ、許してもらうべきは俺の方なのではないか。



野分は俺の過去を知りたいだろうかと、ふとした時に考えることがある。
おそらく俺は、いつか聞かれるだろうと覚悟をしておかなければいけないのだろうけど、俺が話そうとしない限り野分から尋ねてくることはないと思う。
野分が聞いて愉快な話ではないし、あいつ自身薄々察しているかもしれない。
知ったところであいつが声を荒げて俺を罵るところなんて思い浮かばないけれど、それでも野分を傷つけてしまうのは容易に想像できる。
おそらく野分は、当時の俺の苦しみをそのまま背負って傷つくことだろう。
だから、黙っているのが最もお互いにとってベストなのだとわかっている。
だけど時々、昔俺が何をしてきたかを一切合財ぶちまけたい衝動に駆られる時がある。
秋彦への報われない想いに心を荒ませ、行きずりの名前も知らない男たちに何度も身体を任せた。
挙げ句の果てに秋彦の失恋につけこんで、強引に身体を重ねた。
バカだろ?俺は。
お前はこんな男の過去も本当に欲しいのか?

野分にそう打ち明けたところで、俺はどんな台詞を期待しているのだろうと呆れてしまう。
馬鹿だった俺を許してくれとでも言うというのか。
野分が無論許すと言ってくれるだろうことを見越してそんな言葉を言うのは、自己満足の極みだ。
許せ、許す、そんな型どおりのやりとりをして過去を水に流そうするのは、どう考えても野分に対して誠実ではないやり方に思えた。
優しい野分に甘えて昔の過ちをなかったことに、などと虫のいい話である。
野分を傷つけておいて自分だけ清くなろうだなんて、考えてはいけないことなのだ。

こんな風に何度も自分を戒めるけれど、それでも思わずにはいられない。
野分が許してくれるのならば、俺の過ちはなかったことにできるのだろうか、と。
俺の過去を知っても、野分は汚くないと言ってくれるだろうか。



※※※※※


うたた寝をするかしないかギリギリの意識でテレビを見ながらソファーに座っていたら、いつの間にか隣に野分が腰掛けていたのに気付かなかった。
そういえばさっきまで聞こえていたシャワーの音が止んでいる。
野分の身体からまだ温かな湯気を感じ取り、俺は無意識に野分から離れるように横にずれた。
「ヒロさん?」
野分が少し心配そうな目でこちらを見てきた。
視線が合わないように、そのまま斜めにうつむいた。
「ごめんなさい。……この前言ったこと、気にしてます?」
「何の話だ。」
わかっているくせに、と心の中のもう一人の自分が呟く。
「ヒロさんが言いたくないことは、無理に聞こうとは思いません。」
言いたくないんじゃない。
言えないんだ。

だけどもし、お前が本当に全部欲しいと思うのなら。

言葉を遮るように、野分の目の前に手のひらをつきつけた。
野分はきょとんとしている。
「手、握れ。」
「……お安い御用です。」
それでも野分は迷うことなくしっかりと俺の手をつかんだ。
「この手が泥まみれでも?」
「俺が綺麗に洗ってあげます。」
嬉しそうに俺の手を両手で包み込む野分に、俺はやれやれと首を振る。

「お前は何も知らない。」
「……はい。」
「お前は何もわかってない。」
「……はい。」
「だけど、お前は全部持っている。」
「……?」

戸惑い気味の野分に言った。
「答えは死ぬまでに考えておくんだな。」
はい、という元気の良い返事に俺はどうしようもなく安心感を感じた。





俺の全部が欲しいのならば、それを許すのは俺ではなくお前だ。
お前は俺の過去の過ちを目の前にして、こう言えばいい。

わたしの心だ、清くなれ、と。


もしも野分からその言葉が聞けたのならば、俺は跪いて大地に口づけをし、天地四海に向かって野分を愛していると告げよう。
その時、俺の全てはお前のものになる。









END
PR
イベント



リンク
ログ倉庫
(別窓で開く)

ssとイラストの倉庫です。


通販はこちら
profile
HN:
じろぎ
性別:
女性
自己紹介:


成人です。

リンクの切り貼りはご自由にどうぞ。


twitter


pixiv
アーカイブ
ブログ内検索
 ・゚・。・ ゚・。・゚・ 。・゚・
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright © はくじょうそう All Rights Reserved
忍者ブログ / [PR]