絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
+ + + + + + + + + +
『アイス2000円分。内容はトリのセンスにまかせる。』
吉野の家から一番近いスーパーのアイスクリームコーナーで、俺は携帯電話のメール画面を見つめていた。
目の前に広がるのは色とりどりのアイスたち。
「2000円、ね……。」
今からネームの進みを見に行くから、何か差し入れのリクエストはあるかと尋ねたところ、こんな指令メールが届いた。
具体的に指示せずに全部俺にまかせるとは何か試されているような気もするのだが、
(あいつ、いつも何食べてたかな。)
記憶にあるアイスを食べる吉野の姿と頭の中の電卓を総動員させて、ひょいひょいとアイスをカゴに投げ入れた。
「トリ!待ってた!アイス!!」
玄関を開けると待ってましたとばかりにぺたぺたと吉野が走りよってきた。
Tシャツに膝丈のジャージという、まるで夏休みの小学生のような格好だ。
そして口から飛び出す台詞もまるで小学生である。
「トリー、ピノある?」
「買ってきた。というかお前食いたいものあるんなら先に言え。」
「いやー、トリなら買ってきてくれるかなーと思って。雪見だいふくは?」
「ある。」
「バニラのソフトクリームみたいなやつ。」
「ある。」
「んーと、じゃあハーゲンダッツのドルチェ。」
「買ってきた。それからスイカバーとパピコとスーパーカップとアイスもなかと箱モノ二つで合計1942円。」
「すげえええー!!マジお前パーフェクトだな!!」
「……そりゃどうも。」
目を輝かせて俺を誉めたたえる吉野を横目に、気のない返事をする。
すごいすごいと言うけれど、俺はこいつが夏中アイスを食べるところを30年近く見続けているのだ。
それだけ観察していれば、何を欲しがるかぐらい予想がつく。
小学生の頃など毎日プールに出掛けては、帰りにアイスを食べるのに付き合わされたものだ。
「一日一個までだからな。」
いそいそとアイスを冷蔵庫にしまう吉野の背中に声をかけた。
「母親か、お前は。」
「どうせスーパーに行くのも億劫な生活してるんだろう。冷房のきいた部屋でアイスばっかり食って過ごしてたら腹こわすのがオチだ。」
「はいはい、わかりましたよーだ。」
吉野はぶつぶつ言うが、こっちだってこんなつまらないことを口うるさく言いたくはないが、放っておいてみすみす体調を崩させるのも勘弁してほしい。
そろそろ母親ポジションをやめることはあきらめた方がいいのかもしれない。
とりあえず今日はこれー、と吉野はカップアイスを一つ手に取りソファーに腰掛けた。
ソファー前のテーブルに散らかされているネームの束をチェックするために、俺もその横に座る。
ついでにテーブルの上も簡単に片付けながら、紙の束を手にすると、吉野が声をかけてよこした。
「一応それで全部。ケチつけんのは俺が食い終わってからな。」
まったく、いいご身分だ。
真剣にネームをチェックしようとする俺の隣でお構いなしに吉野はちょっかいをかけてくる。
「トリは食べねーの?」
「……お前買ってきたものだからな。」
「冷たいもの欲しくならね?」
「甘いものよりビールの方がいい。」
「ふーん…。」
そっけなく返していると、吉野は少し黙った。
「じゃあさ、」
「?」
「俺が食べさせてやるって言っても?」
そう言って吉野はアイスをひとさじすくって、俺の口元に持ってきた。
「え?」
戸惑った俺の動きが止まって数秒、ボッと急に吉野の顔が赤くなった。
(……しまった。)
口に手を当てて後悔した。
変な空気になる前にためらわず一口で食べてしまえばよかった。
たぶん吉野はいつもの無意識なノリだったのだろう。
それを、俺がためらった数秒にできあがったシチュエーションをうっかり意識してしまったのだと思う。
「……ほ、ほら、アイスとけるって……。」
「あ、ああ……。」
おそるおそる吉野の指先に顔を近付けて、だいぶやわらかくなってしまったアイスを口にした。
店でつけてくれた短い木べらのようなスプーンを使っているせいで、吉野の指先の熱が直に伝わってくるようだった。
「……どうも。」
「……どういたしまして。」
俺の口を離れたスプーンを、吉野はそのまま残ったアイスを舐めるように口に入れたのを俺は見逃さなかった。
「なに……?」
これもどうやら無意識のようで、吉野は用心深くこちらを見上げてくる。
だからこいつはタチが悪い。
無邪気な顔をして、俺にばかり火をつける。
「もう一口。」
「……ッ!!」
俺の言わんとすることを今度はちゃんと理解したようで、スプーンを持った手は膝の上から動かさないまま、おとなしく目を瞑った。
軽く吉野の肩をつかみ、口の端についたアイスを舐め取るようにして柔らかく唇をついばむと、甘い味が口の中に広がる。
吉野の唇の甘さを濃縮するとこんな味になるのかもしれない、と俺はぼんやり考えた。
唇を離すと、ふわりとバニラの香りが漂った。
「あー…。」
吉野が一人間抜けな声をもらした。
どうせ、また流されてしまったのなんだの考えているのだろう。
照れ隠しのように俺の方から正面へ向きなおすと一目散に残りのアイスを食べ始めた。
俺も仕事を放ってがっつくわけにもいかないので、大人しくネームに目を通す作業に戻った。
お互い目を合わせるでもないけれど、吉野が隣に座っていてくれるだけで不思議と穏やかな気分だった。
「まだ、甘いな。」
俺の呟きにビクッと吉野が全身で反応した。
「なっ、なんの話だ!!」
「さて何の話だろうな。」
思わせぶりにできあがったばかりのネームをひらひらさせると吉野は真っ赤になった。
「違う!!ネーム!!ネームの話だ!!!」
はいはい大正解、と今にも噛み付いてきそうな勢いでわめく吉野をなだめて打ち合わせに突入する。
「全体の流れはいいが詰めが甘い。来月に山場を持ってくるには盛り上がりに欠けるんじゃないのか。」
「なんだよ、見せゴマ目一杯使ったじゃねえか!」
俺の指摘に吉野が怒鳴り返すたびに、ふわふわと甘いアイスクリームの匂いがするような気がした。
甘いのはお前の唇だよ、そう言ってやるのは打ち合わせの後でも十分だろう。
そんなことを考えてニヤニヤしていると、真剣味が足りんと吉野にはたかれた。
END
吉野の家から一番近いスーパーのアイスクリームコーナーで、俺は携帯電話のメール画面を見つめていた。
目の前に広がるのは色とりどりのアイスたち。
「2000円、ね……。」
今からネームの進みを見に行くから、何か差し入れのリクエストはあるかと尋ねたところ、こんな指令メールが届いた。
具体的に指示せずに全部俺にまかせるとは何か試されているような気もするのだが、
(あいつ、いつも何食べてたかな。)
記憶にあるアイスを食べる吉野の姿と頭の中の電卓を総動員させて、ひょいひょいとアイスをカゴに投げ入れた。
「トリ!待ってた!アイス!!」
玄関を開けると待ってましたとばかりにぺたぺたと吉野が走りよってきた。
Tシャツに膝丈のジャージという、まるで夏休みの小学生のような格好だ。
そして口から飛び出す台詞もまるで小学生である。
「トリー、ピノある?」
「買ってきた。というかお前食いたいものあるんなら先に言え。」
「いやー、トリなら買ってきてくれるかなーと思って。雪見だいふくは?」
「ある。」
「バニラのソフトクリームみたいなやつ。」
「ある。」
「んーと、じゃあハーゲンダッツのドルチェ。」
「買ってきた。それからスイカバーとパピコとスーパーカップとアイスもなかと箱モノ二つで合計1942円。」
「すげえええー!!マジお前パーフェクトだな!!」
「……そりゃどうも。」
目を輝かせて俺を誉めたたえる吉野を横目に、気のない返事をする。
すごいすごいと言うけれど、俺はこいつが夏中アイスを食べるところを30年近く見続けているのだ。
それだけ観察していれば、何を欲しがるかぐらい予想がつく。
小学生の頃など毎日プールに出掛けては、帰りにアイスを食べるのに付き合わされたものだ。
「一日一個までだからな。」
いそいそとアイスを冷蔵庫にしまう吉野の背中に声をかけた。
「母親か、お前は。」
「どうせスーパーに行くのも億劫な生活してるんだろう。冷房のきいた部屋でアイスばっかり食って過ごしてたら腹こわすのがオチだ。」
「はいはい、わかりましたよーだ。」
吉野はぶつぶつ言うが、こっちだってこんなつまらないことを口うるさく言いたくはないが、放っておいてみすみす体調を崩させるのも勘弁してほしい。
そろそろ母親ポジションをやめることはあきらめた方がいいのかもしれない。
とりあえず今日はこれー、と吉野はカップアイスを一つ手に取りソファーに腰掛けた。
ソファー前のテーブルに散らかされているネームの束をチェックするために、俺もその横に座る。
ついでにテーブルの上も簡単に片付けながら、紙の束を手にすると、吉野が声をかけてよこした。
「一応それで全部。ケチつけんのは俺が食い終わってからな。」
まったく、いいご身分だ。
真剣にネームをチェックしようとする俺の隣でお構いなしに吉野はちょっかいをかけてくる。
「トリは食べねーの?」
「……お前買ってきたものだからな。」
「冷たいもの欲しくならね?」
「甘いものよりビールの方がいい。」
「ふーん…。」
そっけなく返していると、吉野は少し黙った。
「じゃあさ、」
「?」
「俺が食べさせてやるって言っても?」
そう言って吉野はアイスをひとさじすくって、俺の口元に持ってきた。
「え?」
戸惑った俺の動きが止まって数秒、ボッと急に吉野の顔が赤くなった。
(……しまった。)
口に手を当てて後悔した。
変な空気になる前にためらわず一口で食べてしまえばよかった。
たぶん吉野はいつもの無意識なノリだったのだろう。
それを、俺がためらった数秒にできあがったシチュエーションをうっかり意識してしまったのだと思う。
「……ほ、ほら、アイスとけるって……。」
「あ、ああ……。」
おそるおそる吉野の指先に顔を近付けて、だいぶやわらかくなってしまったアイスを口にした。
店でつけてくれた短い木べらのようなスプーンを使っているせいで、吉野の指先の熱が直に伝わってくるようだった。
「……どうも。」
「……どういたしまして。」
俺の口を離れたスプーンを、吉野はそのまま残ったアイスを舐めるように口に入れたのを俺は見逃さなかった。
「なに……?」
これもどうやら無意識のようで、吉野は用心深くこちらを見上げてくる。
だからこいつはタチが悪い。
無邪気な顔をして、俺にばかり火をつける。
「もう一口。」
「……ッ!!」
俺の言わんとすることを今度はちゃんと理解したようで、スプーンを持った手は膝の上から動かさないまま、おとなしく目を瞑った。
軽く吉野の肩をつかみ、口の端についたアイスを舐め取るようにして柔らかく唇をついばむと、甘い味が口の中に広がる。
吉野の唇の甘さを濃縮するとこんな味になるのかもしれない、と俺はぼんやり考えた。
唇を離すと、ふわりとバニラの香りが漂った。
「あー…。」
吉野が一人間抜けな声をもらした。
どうせ、また流されてしまったのなんだの考えているのだろう。
照れ隠しのように俺の方から正面へ向きなおすと一目散に残りのアイスを食べ始めた。
俺も仕事を放ってがっつくわけにもいかないので、大人しくネームに目を通す作業に戻った。
お互い目を合わせるでもないけれど、吉野が隣に座っていてくれるだけで不思議と穏やかな気分だった。
「まだ、甘いな。」
俺の呟きにビクッと吉野が全身で反応した。
「なっ、なんの話だ!!」
「さて何の話だろうな。」
思わせぶりにできあがったばかりのネームをひらひらさせると吉野は真っ赤になった。
「違う!!ネーム!!ネームの話だ!!!」
はいはい大正解、と今にも噛み付いてきそうな勢いでわめく吉野をなだめて打ち合わせに突入する。
「全体の流れはいいが詰めが甘い。来月に山場を持ってくるには盛り上がりに欠けるんじゃないのか。」
「なんだよ、見せゴマ目一杯使ったじゃねえか!」
俺の指摘に吉野が怒鳴り返すたびに、ふわふわと甘いアイスクリームの匂いがするような気がした。
甘いのはお前の唇だよ、そう言ってやるのは打ち合わせの後でも十分だろう。
そんなことを考えてニヤニヤしていると、真剣味が足りんと吉野にはたかれた。
END
PR
最新記事
(07/03)
(04/04)
(02/28)
(02/14)
(06/16)
(05/26)
(05/16)
カテゴリー
アーカイブ
ブログ内検索
・゚・。・ ゚・。・゚・ 。・゚・