絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
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性格・真面目、勤勉。
自分にも他人にも厳しい。
常に冷静で、浮かれたりハメを外しているところは見たことがない。
怒る時は静かに怒りをあらわし、喜ぶ時も静かに笑う。
そんなトリの側に28年間いて、最近発見したことがある。
この男、以外にロマンチスト、である。
さて今月も我ながら乙女のキュンゴマ満載な原稿になりそうだ、と手にしたネームの束を眺めて達成感に満ちたため息をこぼした。
いつものことだけど、激しく打ち合せバトルをしたあとのネームをトリに見せる時は武者震いがする。
俺の仕事は読者にときめきを与えることであり、いわば担当編集のトリは俺の漫画のときめき検査官なわけだ。
徹夜でネームを完成させてテンションがおかしくなっている俺は、自分で考えた言葉にぶはははと自分で吹き出した。
はたから見れば、大の大人の男がときめきだの胸キュンだの連発しながら打ち合せをしている姿は、さぞ滑稽なことだと思う。
仕事とはいえ、多少なりともこの手のことが好きだから、議論も熱くなるわけで。
少女漫画に携わる者ともなれば、多かれ少なかれ思考が乙女になっていくのも当然のことかもしれない。
実際俺も、こんなナリをしながら四六時中胸がキュンとする台詞やシチュエーションを考えている。
もともと少女漫画が好きなせいか、会心の台詞を思いついた時なんかは、
(今の台詞超やべえええーーー!!!俺女の子だったらキュンキュンじゃね!!?)
みたいにテンションが上がることもしばしばだ。
それじゃあトリの場合はどうか。
担当編集であるトリも当然俺に付き合って胸キュンシチュエーションを考えるわけだが、その方法はとことん理論的である。
「3話に出てきたあの台詞と対にすると効果的になるんじゃないか」
「ここで主人公の心情と空模様を連動させる。それから見開きを使ってキャラの心の揺れを目一杯表現しろ」
「このシーンは意外性があった方がいいな。普段は言わなさそうな台詞をいくつか考えてみてくれ」
とまあ、こんな具合だ。
ひらめきで行動するタイプの俺にはトリのような理論派は頼もしい存在だけれど、なんとなく、本気でときめいたりはしてないんじゃないかなーと最初の頃は思っていた。
真面目なトリのことだ。
少女漫画編集を務めあげるために、一生懸命面白い少女漫画を研究したのだろう。
しかし漫画家と編集という関係を外せば俺たちの間には別段ときめきも胸キュンもロマンも必要なかったので、トリの実際という点について知るすべはなかった。
付き合い始めてから初めての誕生日。
ここで俺はトリの意外な面を色々と知ることになる。
案外トリはシチュエーションにこだわる男で、きちんとしたいからとレストランの予約をとったり、わざわざ名前入りのホールケーキを買ってきてくれたり、花くらいあった方がよかったかと悩んだりしてくれた。
逆に俺の方がめんどくさがりか何なのか、そこまでこだわらなくていいのに、と思ったりしていた。
もちろん、トリの気遣いは全部嬉しかったけど、トリに思いの外ロマンチックなこだわりがあったらしいことに俺はびっくりしていた。
俺としてはトリがいてケーキがあって、それで十分だと思っていた。
予約していたフレンチはちょっと惜しかったけど、トリの作ってくれるご飯があれば文句なんて全然ない。
久しぶりのホールケーキは美味かったし、言ってみただけだったのに、あいつはちゃっかり年の数だけキスもしてくれやがったし。
ケーキも甘けりゃキスも甘い。
理性ごと籠絡された俺は結局その日の夜はトリともつれあいながらベッドに沈んだのだった。
そしてしっかり睡眠をとって頭がスッキリした俺は思いついた。
もしかして、トリにはもっと壮大な『理想の誕生日の祝い方』があったんじゃないだろうか。
当日は俺がバカなせいで誕生日なんてすっかり忘れて優と旅行に行ってしまったけど、もし俺が自分の誕生日を忘れずにトリと過ごそうとしていたら?
うーん、と頭をひねり、トリになったつもりでシミュレートする。
「とりあえずお洒落なレストランとか?」
フレンチ行こうぜと言ったのは俺だけど、トリのことだからムード満点なレストランなんかいくつも知ってるだろう。
女の人を連れていくことも多いんじゃないかと思う。
ま、作家とか作家とか作家とかだろうけど!
そういうところで二人で飯食って、テーブルの上には最上のワイン、トリの腕にはバラの花束が抱えられていて、誕生日おめでとう、という優しい囁きとともに手渡され………
「……………る相手は俺、かあ……」
キラッキラな妄想は、トリの向かいに座っているであろう自分の登場で、強制的に幕を下ろしてしまった。
途中まではわりと完璧な図だったんじゃないかと思う。
レストランもワインも花束も確かにベタで陳腐かもしれないけど、それをやるのがトリなら別だ。
トリみたいな男にそーいうシチュエーション整えられたら、女の子ならときめいちゃうんじゃねーの?と思う。
半分ひがみみたいなもんだけど、例の「俺をやる」だって俺が言ったからみんな散々に笑ったけど、トリ本人が言ったらあそこまで笑われなかったんじゃないだろうか。
アシの子たちの間で、男としてのヒエラルキーが圧倒的に低いのは俺の方だとちゃんとわかっている。
本当にずるい男だ。
「……ほんと、ずるいよなー」
結局トリみたいな男と絵面的にお似合いなのは、大人っぽい美人か可愛らしい女の子なのだ。
そういう相手なら、トリにバラの花束を渡されたってにっこり笑って、ありがとう、嬉しい、と一言いえばいい。
それだけで十分さまになる。
しかし俺みたいな男が相手だったら、恥ずかしい真似するな馬鹿!とわめいてみっともないことこの上ない。
せめて男でも、優くらい美人だったら、もう少し余裕を持って受け入れられるのかな、と思う。
昔からこの手のことは苦手なのだ。
なのにあいつは俺のことが好きだと言い、俺いつもそれに甘えてばかりいる。
トリのような男前のロマンチストが俺の恋人なんかをやってるのは、世の女性からしたら単なる損失だよなあと俺は落ち込むわけである。
だからといって別れるつもりなんて毛頭ないし、気分が沈んでいる時はそんな自分にも自己嫌悪してしまう。
俺もワインとバラの似合う男になりてーな!とつまらないことを考えながら、編集部へネームをファックスし、そのまま俺は力尽きた。
「吉野。おい、吉野」
「んー…………、朝……?」
「寝呆けるな。今から晩飯だ」
むくりとソファーから起き上がるとキッチンからはいい匂いがしていて、俺の腹の上にはわざわざ寝室から持ってきたのであろうタオルケットが掛けてあった。
そこで俺はようやく、夕方にネームをファックスしたあとにソファーで寝こけていたことを思い出した。
「まったく。電話にも出ないし、チャイムを押しても反応がないし、何かあったかと思ったぞ」
「えへへへ……すいません」
ネームを会社で受け取って、チェックしたことを伝えるために電話をかけようとして俺が出ないから家まで来たのだろう。
ぐっすり寝ていたせいで、コール音にも気付かなかった。
トリの作ってくれるおいしそうな晩飯の匂いに、お腹がぐうと鳴った。
ネームを仕上げた俺がどういう状態か見越して晩飯の用意までしてくれるという、いつもながらの気遣いが疲れている時には何より嬉しい。
「トリってさ、理想のデートとかあるわけ?」
できたてでほくほくしている肉じゃがを頬張りながら、トリに尋ねた。
ここ数日適当な飯で済ませていた胃袋に、トリの優しい味が染みわたる。
「次回のネームの話か?それとも言ったらお前が叶えてくれるのか?」
「うっ……ただの興味……じゃ、ダメ?」
じろりと睨まれたけど、軽々しく変な約束をしてえらい目にあうのは御免だ。
じゃあ教えないと言われるかと思ったが、トリはあっさりと口を開いた。
「とくにないよ。喜んでもらえればそれでいい」
俺は少し拍子抜けしてしまった。
「嘘だー。俺の誕生日の時、あんなにちゃんとしようって言ってたくせに」
「あれは……」
かたん、と手に持っていた食器を置き、トリは真剣な面持ちで俺を見る。
「あれは、ただの俺の自己満足だ。お前ときちんと付き合っている、ということを焼き付けたかったのかもしれない」
「そっか。いや、まあ、俺もちゃんとしようって言ってもらえて嬉しかったけど、さ」
なんとなくシンとなってしまった空気を打ち破るため、勢いよく味噌汁をすする。
トリも小さく笑って、食事を再開した。
もりもりとトリのご飯を堪能している俺を見つめて、トリがぽつりと言った。
「こうやって飯食ってるだけでもいいんだがな。ただ、たまに特別なことがしたくなる」
「えっ?」
「恋人同士じゃなきゃできないこと。あるだろう?」
「なっ……」
「そういう意味では『理想のデート』かもな」
トリのその慎ましい言葉を聞いて、俺は確信した。
本当にトリはロマンチストだ、と。
だって、『俺と恋人同士じゃなきゃできないことがしたい』とか、そんなささやかな願いからあんなすごい台詞やシチュエーションが出てくるのだ。
そんなの絶対普通の人間なわけがない。
「俺、お洒落なレストランもワインもバラも、何にも似合わないんだけど」
「そういうものが似合う相手が欲しかったらとっくにそうしてる」
「あーそうですか」
口を尖らせながらも、俺は安心した。
第三者から見てトリにお似合いな相手がどんなであろうと、俺がどうにもならないのと同じくらい、こいつもどうにもならないのだ。
だから、俺ができることはせいぜい他人の目を気にし過ぎないようにトリとやっていくことくらいだ。
ま、トリのためにはもうちょっと努力が必要かな、と思うところも多いけれど。
晩飯後、トリが洗い物をしている横に並んで、俺も手伝った。
広めのシンクだけど、男二人が並ぶと腕が触れ合うのがくすぐったい。
どういう風の吹き回しだと言われたけど、新婚ごっこと言って笑ったら目を丸くして絶句された。
ワインもバラもないけれど、こういうデートから始めるのもアリかもしれないと思う。
END
自分にも他人にも厳しい。
常に冷静で、浮かれたりハメを外しているところは見たことがない。
怒る時は静かに怒りをあらわし、喜ぶ時も静かに笑う。
そんなトリの側に28年間いて、最近発見したことがある。
この男、以外にロマンチスト、である。
さて今月も我ながら乙女のキュンゴマ満載な原稿になりそうだ、と手にしたネームの束を眺めて達成感に満ちたため息をこぼした。
いつものことだけど、激しく打ち合せバトルをしたあとのネームをトリに見せる時は武者震いがする。
俺の仕事は読者にときめきを与えることであり、いわば担当編集のトリは俺の漫画のときめき検査官なわけだ。
徹夜でネームを完成させてテンションがおかしくなっている俺は、自分で考えた言葉にぶはははと自分で吹き出した。
はたから見れば、大の大人の男がときめきだの胸キュンだの連発しながら打ち合せをしている姿は、さぞ滑稽なことだと思う。
仕事とはいえ、多少なりともこの手のことが好きだから、議論も熱くなるわけで。
少女漫画に携わる者ともなれば、多かれ少なかれ思考が乙女になっていくのも当然のことかもしれない。
実際俺も、こんなナリをしながら四六時中胸がキュンとする台詞やシチュエーションを考えている。
もともと少女漫画が好きなせいか、会心の台詞を思いついた時なんかは、
(今の台詞超やべえええーーー!!!俺女の子だったらキュンキュンじゃね!!?)
みたいにテンションが上がることもしばしばだ。
それじゃあトリの場合はどうか。
担当編集であるトリも当然俺に付き合って胸キュンシチュエーションを考えるわけだが、その方法はとことん理論的である。
「3話に出てきたあの台詞と対にすると効果的になるんじゃないか」
「ここで主人公の心情と空模様を連動させる。それから見開きを使ってキャラの心の揺れを目一杯表現しろ」
「このシーンは意外性があった方がいいな。普段は言わなさそうな台詞をいくつか考えてみてくれ」
とまあ、こんな具合だ。
ひらめきで行動するタイプの俺にはトリのような理論派は頼もしい存在だけれど、なんとなく、本気でときめいたりはしてないんじゃないかなーと最初の頃は思っていた。
真面目なトリのことだ。
少女漫画編集を務めあげるために、一生懸命面白い少女漫画を研究したのだろう。
しかし漫画家と編集という関係を外せば俺たちの間には別段ときめきも胸キュンもロマンも必要なかったので、トリの実際という点について知るすべはなかった。
付き合い始めてから初めての誕生日。
ここで俺はトリの意外な面を色々と知ることになる。
案外トリはシチュエーションにこだわる男で、きちんとしたいからとレストランの予約をとったり、わざわざ名前入りのホールケーキを買ってきてくれたり、花くらいあった方がよかったかと悩んだりしてくれた。
逆に俺の方がめんどくさがりか何なのか、そこまでこだわらなくていいのに、と思ったりしていた。
もちろん、トリの気遣いは全部嬉しかったけど、トリに思いの外ロマンチックなこだわりがあったらしいことに俺はびっくりしていた。
俺としてはトリがいてケーキがあって、それで十分だと思っていた。
予約していたフレンチはちょっと惜しかったけど、トリの作ってくれるご飯があれば文句なんて全然ない。
久しぶりのホールケーキは美味かったし、言ってみただけだったのに、あいつはちゃっかり年の数だけキスもしてくれやがったし。
ケーキも甘けりゃキスも甘い。
理性ごと籠絡された俺は結局その日の夜はトリともつれあいながらベッドに沈んだのだった。
そしてしっかり睡眠をとって頭がスッキリした俺は思いついた。
もしかして、トリにはもっと壮大な『理想の誕生日の祝い方』があったんじゃないだろうか。
当日は俺がバカなせいで誕生日なんてすっかり忘れて優と旅行に行ってしまったけど、もし俺が自分の誕生日を忘れずにトリと過ごそうとしていたら?
うーん、と頭をひねり、トリになったつもりでシミュレートする。
「とりあえずお洒落なレストランとか?」
フレンチ行こうぜと言ったのは俺だけど、トリのことだからムード満点なレストランなんかいくつも知ってるだろう。
女の人を連れていくことも多いんじゃないかと思う。
ま、作家とか作家とか作家とかだろうけど!
そういうところで二人で飯食って、テーブルの上には最上のワイン、トリの腕にはバラの花束が抱えられていて、誕生日おめでとう、という優しい囁きとともに手渡され………
「……………る相手は俺、かあ……」
キラッキラな妄想は、トリの向かいに座っているであろう自分の登場で、強制的に幕を下ろしてしまった。
途中まではわりと完璧な図だったんじゃないかと思う。
レストランもワインも花束も確かにベタで陳腐かもしれないけど、それをやるのがトリなら別だ。
トリみたいな男にそーいうシチュエーション整えられたら、女の子ならときめいちゃうんじゃねーの?と思う。
半分ひがみみたいなもんだけど、例の「俺をやる」だって俺が言ったからみんな散々に笑ったけど、トリ本人が言ったらあそこまで笑われなかったんじゃないだろうか。
アシの子たちの間で、男としてのヒエラルキーが圧倒的に低いのは俺の方だとちゃんとわかっている。
本当にずるい男だ。
「……ほんと、ずるいよなー」
結局トリみたいな男と絵面的にお似合いなのは、大人っぽい美人か可愛らしい女の子なのだ。
そういう相手なら、トリにバラの花束を渡されたってにっこり笑って、ありがとう、嬉しい、と一言いえばいい。
それだけで十分さまになる。
しかし俺みたいな男が相手だったら、恥ずかしい真似するな馬鹿!とわめいてみっともないことこの上ない。
せめて男でも、優くらい美人だったら、もう少し余裕を持って受け入れられるのかな、と思う。
昔からこの手のことは苦手なのだ。
なのにあいつは俺のことが好きだと言い、俺いつもそれに甘えてばかりいる。
トリのような男前のロマンチストが俺の恋人なんかをやってるのは、世の女性からしたら単なる損失だよなあと俺は落ち込むわけである。
だからといって別れるつもりなんて毛頭ないし、気分が沈んでいる時はそんな自分にも自己嫌悪してしまう。
俺もワインとバラの似合う男になりてーな!とつまらないことを考えながら、編集部へネームをファックスし、そのまま俺は力尽きた。
「吉野。おい、吉野」
「んー…………、朝……?」
「寝呆けるな。今から晩飯だ」
むくりとソファーから起き上がるとキッチンからはいい匂いがしていて、俺の腹の上にはわざわざ寝室から持ってきたのであろうタオルケットが掛けてあった。
そこで俺はようやく、夕方にネームをファックスしたあとにソファーで寝こけていたことを思い出した。
「まったく。電話にも出ないし、チャイムを押しても反応がないし、何かあったかと思ったぞ」
「えへへへ……すいません」
ネームを会社で受け取って、チェックしたことを伝えるために電話をかけようとして俺が出ないから家まで来たのだろう。
ぐっすり寝ていたせいで、コール音にも気付かなかった。
トリの作ってくれるおいしそうな晩飯の匂いに、お腹がぐうと鳴った。
ネームを仕上げた俺がどういう状態か見越して晩飯の用意までしてくれるという、いつもながらの気遣いが疲れている時には何より嬉しい。
「トリってさ、理想のデートとかあるわけ?」
できたてでほくほくしている肉じゃがを頬張りながら、トリに尋ねた。
ここ数日適当な飯で済ませていた胃袋に、トリの優しい味が染みわたる。
「次回のネームの話か?それとも言ったらお前が叶えてくれるのか?」
「うっ……ただの興味……じゃ、ダメ?」
じろりと睨まれたけど、軽々しく変な約束をしてえらい目にあうのは御免だ。
じゃあ教えないと言われるかと思ったが、トリはあっさりと口を開いた。
「とくにないよ。喜んでもらえればそれでいい」
俺は少し拍子抜けしてしまった。
「嘘だー。俺の誕生日の時、あんなにちゃんとしようって言ってたくせに」
「あれは……」
かたん、と手に持っていた食器を置き、トリは真剣な面持ちで俺を見る。
「あれは、ただの俺の自己満足だ。お前ときちんと付き合っている、ということを焼き付けたかったのかもしれない」
「そっか。いや、まあ、俺もちゃんとしようって言ってもらえて嬉しかったけど、さ」
なんとなくシンとなってしまった空気を打ち破るため、勢いよく味噌汁をすする。
トリも小さく笑って、食事を再開した。
もりもりとトリのご飯を堪能している俺を見つめて、トリがぽつりと言った。
「こうやって飯食ってるだけでもいいんだがな。ただ、たまに特別なことがしたくなる」
「えっ?」
「恋人同士じゃなきゃできないこと。あるだろう?」
「なっ……」
「そういう意味では『理想のデート』かもな」
トリのその慎ましい言葉を聞いて、俺は確信した。
本当にトリはロマンチストだ、と。
だって、『俺と恋人同士じゃなきゃできないことがしたい』とか、そんなささやかな願いからあんなすごい台詞やシチュエーションが出てくるのだ。
そんなの絶対普通の人間なわけがない。
「俺、お洒落なレストランもワインもバラも、何にも似合わないんだけど」
「そういうものが似合う相手が欲しかったらとっくにそうしてる」
「あーそうですか」
口を尖らせながらも、俺は安心した。
第三者から見てトリにお似合いな相手がどんなであろうと、俺がどうにもならないのと同じくらい、こいつもどうにもならないのだ。
だから、俺ができることはせいぜい他人の目を気にし過ぎないようにトリとやっていくことくらいだ。
ま、トリのためにはもうちょっと努力が必要かな、と思うところも多いけれど。
晩飯後、トリが洗い物をしている横に並んで、俺も手伝った。
広めのシンクだけど、男二人が並ぶと腕が触れ合うのがくすぐったい。
どういう風の吹き回しだと言われたけど、新婚ごっこと言って笑ったら目を丸くして絶句された。
ワインもバラもないけれど、こういうデートから始めるのもアリかもしれないと思う。
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