絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
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夏休みなんてものに縁がなくなってからずいぶん経つが、それでも大学にいるとその片鱗は今でも感じ取ることができる。
一番夏休みに近い位置にいる社会人、ということか。
いつもは学部生で混みあっている食堂も人がまばらになり、
キャンパスを歩く学生が抱えるのは教科書ではなくクラブ活動の道具や旅行のパンフレットだ。
そんな姿を見れば自身の夏休みを思い出してしまうのも無理からぬもの。
と言っても、特に変わった夏休みの過ごし方をしてきたわけではない。
至って平凡な大学生の休暇だ。
バイトをしたり遊びに行ったり、一年のときは自動車学校に通ったりして。
ただ授業やテストが終わってもまだレポートの提出が残されていたので、休みでも最初のうちは頻繁に図書館に通っていた。
図書館ではよく秋彦に会った。
秋彦に会えることを期待して図書館に行っていた、というのは完全には否定できない。
事実、さっさと終わらせてしまえばいいようなレポートも締め切りギリギリまで書き上げず、しつこく図書館通いをしていたものだ。
秋彦が好きな『タカヒロ』は社会人だった。
俺は密かにそのことに感謝していた。
もし彼が俺と同じ学生だったら、秋彦との夏休みは完全に奪われていただろう。
だけど、夏休みなどという自由な時間を持て余すのは俺たち学生の特権だった。
でも俺はちゃんと知っていた。
秋彦がそんなタカヒロをどれだけ敬い、愛しているかを。
本人ではなく、そんなことなんか知りたくない俺が一番よく知っているという皮肉。
あいつは俺の部屋で寝転びながら言った。
今一つだけ願いを叶えてもらえるのなら、タカヒロに夏休みをプレゼントするんだ、と。
そのとき俺は、もし叶ったとしてもきっと彼は弟と過ごすだろう、と茶化した気がする。
自分の恋心への精一杯の抵抗だった。
俺と秋彦の関係は進展するのか。
夏の太陽が見せる一瞬の幻は、いつもいつも俺に残酷な期待を抱かせた。
いつまでも秋彦の叶わぬ恋を隣で見ているだけなんて耐えられなかった。
だけど幼なじみから進展した自分たちの姿なんて、夏の力を以てしても想像できなくて。
見果てぬ夢に目を眩ませるうちにやがて夏は終わり、涼しげな風とともに新学期が始まるのが常だった。
いつまで俺はこんな虚しい思いを抱えていなければいけないのだろう。
そう思っていた。
四年生の夏までは。
大学生活最後の夏休みが終わり、臆病な俺は自分の気持ちを告げられないまま秋彦に突撃し、玉砕した。
最悪なことにあいつまでズタズタに傷つけて。
秋彦はそれでも優しかったけれど、このまま大学生活といっしょに、あいつとの今まで築いてきた関係も全て終わると思った。
その方が楽になれるかもしれないとすら思っていた。
だけど台風の季節も終わった頃、俺の前に台風みたいな男があらわれて、俺の生活を巻き込み、
しまいには心までからめとって行ってしまった。
失恋から急転直下、瞬きをする間もないくらい。
秋彦以外の誰かに心を奪われるなんて、考えてもみなかったけど、気が付けば俺の心は新しい恋で満たされていた。
世界の終わりにいた自分を引っ張り上げてくれるような恋。
大学生最後の夏が過ぎたあと、俺は野分と出会ったのだった。
結局、俺と秋彦は友人のまま。
だけどそれはとてもポジティブな意味で、俺はそのことに心から安心した。
そして次の夏からは、俺の傍には野分がいるようになった。
俺も大学院生になり、学部生のような夏休みはなくなってしまったけど、野分と過ごす夏は眩しいくらいに楽しかった。
別にいっしょにどこかへ出掛けるわけでもなく、時間があう時に会ったりする程度だったけれど、
自分に好きな奴がいて、そいつも俺のことを好きでいてくれて、そばにいてくれる。
それはたぶん俺にとって十分な奇跡だったと思う。
初めて学会に出された年。
暑い中カッターシャツを着てネクタイを絞め、緊張から解放されてよろよろと部屋に帰ってくると野分が待っていた。
俺の顔を見るといつもの笑顔で、お疲れさまです、と言ってくれた。
その手には大きな買い物袋。
ヒロさんと乾杯しようと思って買ってきたんですけど、アルコール売ってもらえなくて。
そう苦笑いして見せてくれたのは大量のノンアルコール飲料だ。
中学生かよと俺たちは大笑いしてそれを飲み、二人とも酔ったことにしてじゃれあいながら抱き合った。
これまで誰かに抱かれるのは虚しいことばかりと思っていたけれど、野分に抱かれるのはひたすらに気持ち良く、幸せだった。
快感に漏れる俺のみっともない声も、余裕をなくした野分の欲情した息遣いも、全部が俺を満たしてくれた。
クーラーもつけていない部屋で汗まみれになって絡み合う俺たちに、もう夏の幻は必要なかった。
その先一度だけ野分のいない夏があったけれど、今年の夏も俺は野分のそばにいる。
※
「お前、夏休みは?」
ビールのグラスを置き、ソファに座っている野分に尋ねた。
もはやお互い申し訳程度の休みしか取れない身だ。
二人ともバイトだの論文だのと言いながら、何にも属さない時間を共有できていた昔が懐かしい。
「お盆からちょっとずらしてお休みをもらおうかなあと思ってます。」
俺には帰らなくちゃいけない実家も、お参りしなくちゃいけないお墓もないですから、と野分は笑った。
「そっか。」
じゃあ俺もそれに合わせて休みをとろうか、と言うと野分は微笑んで見せた。
「俺はヒロさんといっしょに過ごせるのが一番嬉しいです。」
「……言ってろ。」
これから何回も夏を一緒に過ごせば、俺もだよ、なんて言葉が言えるようになるだろうか。
「あ、そうだ。」
野分は何か思い出したかのようにバッグをごそごそ探り始めた。
取り出したのは、時刻表。
「まだ旅行なんて行けるかわからないですけど、計画だけでも楽しいかなあって。」
しばし呆然とする俺。
「だから、いっしょに計画立ててくれませんか?」
「……うん。」
うなずいた俺は野分の隣に座り、二人であれこれページを繰りながら他愛もない話をした。
二人の目の前に広がる地図には際限がなく、空想の中で野分は俺の手を引き電車に駆け込む。
実際にはとてもできないような壮大な旅の計画を考えては、二人で笑いあった。
「出不精の俺たちが旅行の計画立ててるなんて、繁忙期にもなるよなあ。」
「ほんとですね。」
この夏もきっといつか懐かしむ時が来るのだと思う。
その時のことを考えて、俺は幸福に目を細めた。
END
野分は知り合いの店で買ったのでアルコールを売ってもらえなかったんだと思います。
『わっちゃんまだ未成年だろ?おまけするからこっちにしな!』って…。
一番夏休みに近い位置にいる社会人、ということか。
いつもは学部生で混みあっている食堂も人がまばらになり、
キャンパスを歩く学生が抱えるのは教科書ではなくクラブ活動の道具や旅行のパンフレットだ。
そんな姿を見れば自身の夏休みを思い出してしまうのも無理からぬもの。
と言っても、特に変わった夏休みの過ごし方をしてきたわけではない。
至って平凡な大学生の休暇だ。
バイトをしたり遊びに行ったり、一年のときは自動車学校に通ったりして。
ただ授業やテストが終わってもまだレポートの提出が残されていたので、休みでも最初のうちは頻繁に図書館に通っていた。
図書館ではよく秋彦に会った。
秋彦に会えることを期待して図書館に行っていた、というのは完全には否定できない。
事実、さっさと終わらせてしまえばいいようなレポートも締め切りギリギリまで書き上げず、しつこく図書館通いをしていたものだ。
秋彦が好きな『タカヒロ』は社会人だった。
俺は密かにそのことに感謝していた。
もし彼が俺と同じ学生だったら、秋彦との夏休みは完全に奪われていただろう。
だけど、夏休みなどという自由な時間を持て余すのは俺たち学生の特権だった。
でも俺はちゃんと知っていた。
秋彦がそんなタカヒロをどれだけ敬い、愛しているかを。
本人ではなく、そんなことなんか知りたくない俺が一番よく知っているという皮肉。
あいつは俺の部屋で寝転びながら言った。
今一つだけ願いを叶えてもらえるのなら、タカヒロに夏休みをプレゼントするんだ、と。
そのとき俺は、もし叶ったとしてもきっと彼は弟と過ごすだろう、と茶化した気がする。
自分の恋心への精一杯の抵抗だった。
俺と秋彦の関係は進展するのか。
夏の太陽が見せる一瞬の幻は、いつもいつも俺に残酷な期待を抱かせた。
いつまでも秋彦の叶わぬ恋を隣で見ているだけなんて耐えられなかった。
だけど幼なじみから進展した自分たちの姿なんて、夏の力を以てしても想像できなくて。
見果てぬ夢に目を眩ませるうちにやがて夏は終わり、涼しげな風とともに新学期が始まるのが常だった。
いつまで俺はこんな虚しい思いを抱えていなければいけないのだろう。
そう思っていた。
四年生の夏までは。
大学生活最後の夏休みが終わり、臆病な俺は自分の気持ちを告げられないまま秋彦に突撃し、玉砕した。
最悪なことにあいつまでズタズタに傷つけて。
秋彦はそれでも優しかったけれど、このまま大学生活といっしょに、あいつとの今まで築いてきた関係も全て終わると思った。
その方が楽になれるかもしれないとすら思っていた。
だけど台風の季節も終わった頃、俺の前に台風みたいな男があらわれて、俺の生活を巻き込み、
しまいには心までからめとって行ってしまった。
失恋から急転直下、瞬きをする間もないくらい。
秋彦以外の誰かに心を奪われるなんて、考えてもみなかったけど、気が付けば俺の心は新しい恋で満たされていた。
世界の終わりにいた自分を引っ張り上げてくれるような恋。
大学生最後の夏が過ぎたあと、俺は野分と出会ったのだった。
結局、俺と秋彦は友人のまま。
だけどそれはとてもポジティブな意味で、俺はそのことに心から安心した。
そして次の夏からは、俺の傍には野分がいるようになった。
俺も大学院生になり、学部生のような夏休みはなくなってしまったけど、野分と過ごす夏は眩しいくらいに楽しかった。
別にいっしょにどこかへ出掛けるわけでもなく、時間があう時に会ったりする程度だったけれど、
自分に好きな奴がいて、そいつも俺のことを好きでいてくれて、そばにいてくれる。
それはたぶん俺にとって十分な奇跡だったと思う。
初めて学会に出された年。
暑い中カッターシャツを着てネクタイを絞め、緊張から解放されてよろよろと部屋に帰ってくると野分が待っていた。
俺の顔を見るといつもの笑顔で、お疲れさまです、と言ってくれた。
その手には大きな買い物袋。
ヒロさんと乾杯しようと思って買ってきたんですけど、アルコール売ってもらえなくて。
そう苦笑いして見せてくれたのは大量のノンアルコール飲料だ。
中学生かよと俺たちは大笑いしてそれを飲み、二人とも酔ったことにしてじゃれあいながら抱き合った。
これまで誰かに抱かれるのは虚しいことばかりと思っていたけれど、野分に抱かれるのはひたすらに気持ち良く、幸せだった。
快感に漏れる俺のみっともない声も、余裕をなくした野分の欲情した息遣いも、全部が俺を満たしてくれた。
クーラーもつけていない部屋で汗まみれになって絡み合う俺たちに、もう夏の幻は必要なかった。
その先一度だけ野分のいない夏があったけれど、今年の夏も俺は野分のそばにいる。
※
「お前、夏休みは?」
ビールのグラスを置き、ソファに座っている野分に尋ねた。
もはやお互い申し訳程度の休みしか取れない身だ。
二人ともバイトだの論文だのと言いながら、何にも属さない時間を共有できていた昔が懐かしい。
「お盆からちょっとずらしてお休みをもらおうかなあと思ってます。」
俺には帰らなくちゃいけない実家も、お参りしなくちゃいけないお墓もないですから、と野分は笑った。
「そっか。」
じゃあ俺もそれに合わせて休みをとろうか、と言うと野分は微笑んで見せた。
「俺はヒロさんといっしょに過ごせるのが一番嬉しいです。」
「……言ってろ。」
これから何回も夏を一緒に過ごせば、俺もだよ、なんて言葉が言えるようになるだろうか。
「あ、そうだ。」
野分は何か思い出したかのようにバッグをごそごそ探り始めた。
取り出したのは、時刻表。
「まだ旅行なんて行けるかわからないですけど、計画だけでも楽しいかなあって。」
しばし呆然とする俺。
「だから、いっしょに計画立ててくれませんか?」
「……うん。」
うなずいた俺は野分の隣に座り、二人であれこれページを繰りながら他愛もない話をした。
二人の目の前に広がる地図には際限がなく、空想の中で野分は俺の手を引き電車に駆け込む。
実際にはとてもできないような壮大な旅の計画を考えては、二人で笑いあった。
「出不精の俺たちが旅行の計画立ててるなんて、繁忙期にもなるよなあ。」
「ほんとですね。」
この夏もきっといつか懐かしむ時が来るのだと思う。
その時のことを考えて、俺は幸福に目を細めた。
END
野分は知り合いの店で買ったのでアルコールを売ってもらえなかったんだと思います。
『わっちゃんまだ未成年だろ?おまけするからこっちにしな!』って…。
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