絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
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旅人とは旅をする人のことである。
釣り人は釣りをする人のことである。
そこで吉野千秋は考えた。
恋人とは恋をしている人であるのか、と。
(パターンに当てはめればそうだと思うんだけど)
しかしいまいち納得がいかないのである。
恋人は恋をしている人間だという認識は理解できるものの、自分の身に置き換えてみると首をかしげてしまうのであった。
「何にもしてないのに恋人だなんて思えるわけないだろ」
とか、
「恋人だ、悪いか!」
とか、そういったことを口にしたことのある千秋だ。
自分には恋人がいる、という認識はある。
しかし自分が今恋をしているかと聞かれれば、躊躇いなく肯定することができなかった。
いわゆる『これが恋かしら』状態とでも言おうか。
ただ、千秋の頭の中のそれはおとぎ話よりももう少し懐疑的であった。
(俺は今、恋をしているんだろうか)
そんな疑問が頭をよぎると、ぼわん、と少女漫画の一コマのように恋人の顔が思い浮かび、千秋は一人赤面した。
その程度には恋人の存在ははっきりしたものであるようだが、千秋の知識の中にある恋愛とはやや様相を異にしているようである。
当然千秋の職業は少女漫画家なので、頭の中にある恋愛とは大半が漫画的なシチュエーションであることは否めない。
もちろんそんな恋愛をしている人間はそんなにたくさんいないはずだ。
では何が問題か。
「怠惰過ぎる、気がする」
ソファーの上で膝を抱え、千秋は誰に言うでもなくつぶやいた。
怠惰というのは基本的に誉められたことではないが、殊に恋愛においてはさもあろう。
しかし吉野千秋というのは怠惰が服を着て漫画を描いているような人間だった。
ソファーで膝を抱えていると幼馴染み兼、担当編集兼、恋人である羽鳥に原稿はどうしたと頭をはたかれる始末である。
「今やろうと思ってたところだっつーの」
「小学生みたいな口答えをするな」
このように冷たい言葉を浴びせながらもキッチンに向かい、自分のために夕食の支度をしてくれる恋人の背中を見て千秋は思うわけである。
(恋ってソファーでごろごろしながらするもんだっけ……?)
要するに千秋は自分に努力の姿勢が感じられないことに悩んでいるのであった。
悩むくらいならばきちんと努力をすればいいではないか。
世の人はおそらくそう言うであろう。
千秋とてこれが勉強やスポーツの話ならば、真面目に努力するのもやぶさかではないかもしれない。
しかし今問題にしているのは恋愛なのだ。
恋愛とはつまり恋と愛だ。
毎日ドリルを解くような、あるいは毎日走り込みをするような、そういうものとはわけが違う。
少なくとも千秋はそう考えている。
羽鳥が夕食を作る。
千秋がそれを喜んでむしゃむしゃ食べる。
羽鳥が嬉しそうな顔をする。
これも恋人同士の営みの一つといえばそう言えるかもしれないが、千秋にしてみれば自分がしているのは恋ではなく単なる食事だった。
好物をお腹いっぱいに食べていることで恋と呼んでは、真っ当な恋人たちに石をぶつけられそうな気もする。
いそいそと恋人のために料理を作る羽鳥の姿こそが、おそらく恋をしている人間の姿として正しいと思われる。
その他に千秋が恋人のルーチンとして行っていることは、
『差し入れをねだる』
『勝手にベッドを占領する』
『原稿の取り立てから逃げる』
『家事をしてもらっているのを横目に昼寝をする』
このような感じだろうか。
どう見ても努力義務を放棄しているとしか思えない。
友人の柳瀬が言うように、羽鳥はドMだからもしかしたらこれを喜んでいるのかもしれない。
しかし千秋はこの一連の行いを差して恋と称する勇気がなかった。
ならば肉体関係はどうだ。
(に、肉体関係……)
千秋は己の言葉にまたも赤面した。
ありていにいえば、千秋と羽鳥はやることはやっている間柄である。
これを根拠に恋人だ、と言ってもいいかもしれない。
ではその行為を恋と呼ぶかどうかはまたも思案を要する疑問であった。
当然好きな相手だからできることだが、やっぱり千秋はそこに自分の努力の痕跡を見つけられなかった。
流されてばっかりだし、と思ってしまう。
努力の余地があるのはどういう方向だろう、と千秋は考えた。
清い方向での努力となるとメール、電話、手作り料理、プレゼント、ラブレター、交換日記等々恥ずかしいアイデアばかりが出てくる。
毎日羽鳥に、
「好きだよ」
と電話で囁けば良いのか。
あるいは毎日羽鳥の家へ通い妻をし、掃除洗濯料理に励めば良いのか。
そのようなことできるはずがない。
前者は実行すればその後一ヶ月はまともに羽鳥の顔を見られないだろうし、後者は気持ちが伝わってもその五十倍は迷惑をかけるに決まっている。
それよりは一応大人同士の恋愛として、しっとりと、あるいは激しく夜の努力をした方がいいかもしれない。
この一、二年の観察の結果、羽鳥は相当エロいことが好きであることがわかった。
恋人にこのような名を冠するのはやや抵抗がある千秋だったが、世間ではおそらく『ムッツリスケベ』と分類されることに全力で否定はできなかった。
ならばそういった方面のご奉仕をすれば羽鳥は喜んでくれるはず。
ようしこれで決まりだ、これで勝てる!
何に勝つのかはよくわからないが、千秋は拳を握りしめ意気込み、その三秒後に意気消沈した。
羽鳥と付き合うまで、干からびたような恋愛遍歴しかない男が一体何をしようというのだ。
これまでに千秋がかろうじて自分から何かしらしたことと言えば、唇に触れるだけのキスをしたことと、自ら羽鳥の上にまたがって腰を抜かしたことくらいだ。
恥ずかしいことを色々言ったこともあるが、あれはどちらかと言えば自分で言ったというよりも言わされた感が強い。
悔しいが、羽鳥のいいように掌で転がされているだけなのだ。
「もういい。やめた」
デザートまできっちりと食べ終えた千秋は、そう言って再びソファーに寝転がった。
どうぜ自分にできることなんて何もないのだ。
世間の人はこんな自分が真面目に恋愛をしているなんて思っちゃくれないだろうが、もはや仕方ない。
結局はこの性格が直らない限りどうしようもないのだ。
ふん、もう知らん、と千秋はふてくされた。
キッチンへ向かおうとした羽鳥は、そんな千秋の様子に気付いて戻ってきた。
そっと隣に腰かけて、顔を覗き込まれる。
「どうした?体調でも悪いのか」
「……別に」
落ち込んでいるときに優しい言葉をかけられると、ますます千秋は自分がダメ人間に思えてくる。
そして、こんな自分を好きになってしまったこいつは本当にかわいそうだ、と千秋は思った。
かわいそうだけれど、解放してやるには千秋も羽鳥のことを好き過ぎるのだった。
「なんかさ、俺ってすっごくラッキーなのかも」
「ラッキーだと思ってる顔じゃないぞ」
冷静な羽鳥の突っ込みにも構わず、千秋は続けた。
「俺、ダラダラするのが好きじゃん?」
「そうだな」
「で、俺とお前って付き合ってるじゃん?」
「……ああ」
「ダラダラしながら恋愛できる、俺って超ラッキーだなって思った」
千秋の言動が突拍子もないことは日常茶飯事だが、嬉しさが加わったことにより羽鳥は動揺した。
動揺はしたが、訓練された男の身体であるので、その次の行動を間違えることはしない。
すなわち、接吻とか抱擁とか、そういう行為のタイミングには敏い男であった。
千秋の身体を引っ張り上げるか覆いかぶさるか少し迷ったが、とにかく抱き締めて唇を吸った。
羽鳥との恋愛について色々考えていた千秋は知恵熱の微熱版のようなものが出ていたようで、されるがままに羽鳥の愛撫を受けている。
「どっちかといえばラッキーなのは俺の方だと思うんだが」
「そうかな」
「ダラダラと飯食ったり昼寝してるだけで俺のことをここまで喜ばせられる奴は他にはいないだろ」
「……そっか」
うまく働いていない脳で、あっさりと千秋は納得した。
そうか、そうか。
飯食ってるだけで俺はよかったんだな、と。
世間の人は何というかわからないが、当分世間にお披露目する予定はないから別にいいだろう。
当事者の羽鳥がこれでいいと言うのならこれでいいのだ。
これは紛れもなく恋愛である。
そう、誰が何と言おうとも。
END
釣り人は釣りをする人のことである。
そこで吉野千秋は考えた。
恋人とは恋をしている人であるのか、と。
(パターンに当てはめればそうだと思うんだけど)
しかしいまいち納得がいかないのである。
恋人は恋をしている人間だという認識は理解できるものの、自分の身に置き換えてみると首をかしげてしまうのであった。
「何にもしてないのに恋人だなんて思えるわけないだろ」
とか、
「恋人だ、悪いか!」
とか、そういったことを口にしたことのある千秋だ。
自分には恋人がいる、という認識はある。
しかし自分が今恋をしているかと聞かれれば、躊躇いなく肯定することができなかった。
いわゆる『これが恋かしら』状態とでも言おうか。
ただ、千秋の頭の中のそれはおとぎ話よりももう少し懐疑的であった。
(俺は今、恋をしているんだろうか)
そんな疑問が頭をよぎると、ぼわん、と少女漫画の一コマのように恋人の顔が思い浮かび、千秋は一人赤面した。
その程度には恋人の存在ははっきりしたものであるようだが、千秋の知識の中にある恋愛とはやや様相を異にしているようである。
当然千秋の職業は少女漫画家なので、頭の中にある恋愛とは大半が漫画的なシチュエーションであることは否めない。
もちろんそんな恋愛をしている人間はそんなにたくさんいないはずだ。
では何が問題か。
「怠惰過ぎる、気がする」
ソファーの上で膝を抱え、千秋は誰に言うでもなくつぶやいた。
怠惰というのは基本的に誉められたことではないが、殊に恋愛においてはさもあろう。
しかし吉野千秋というのは怠惰が服を着て漫画を描いているような人間だった。
ソファーで膝を抱えていると幼馴染み兼、担当編集兼、恋人である羽鳥に原稿はどうしたと頭をはたかれる始末である。
「今やろうと思ってたところだっつーの」
「小学生みたいな口答えをするな」
このように冷たい言葉を浴びせながらもキッチンに向かい、自分のために夕食の支度をしてくれる恋人の背中を見て千秋は思うわけである。
(恋ってソファーでごろごろしながらするもんだっけ……?)
要するに千秋は自分に努力の姿勢が感じられないことに悩んでいるのであった。
悩むくらいならばきちんと努力をすればいいではないか。
世の人はおそらくそう言うであろう。
千秋とてこれが勉強やスポーツの話ならば、真面目に努力するのもやぶさかではないかもしれない。
しかし今問題にしているのは恋愛なのだ。
恋愛とはつまり恋と愛だ。
毎日ドリルを解くような、あるいは毎日走り込みをするような、そういうものとはわけが違う。
少なくとも千秋はそう考えている。
羽鳥が夕食を作る。
千秋がそれを喜んでむしゃむしゃ食べる。
羽鳥が嬉しそうな顔をする。
これも恋人同士の営みの一つといえばそう言えるかもしれないが、千秋にしてみれば自分がしているのは恋ではなく単なる食事だった。
好物をお腹いっぱいに食べていることで恋と呼んでは、真っ当な恋人たちに石をぶつけられそうな気もする。
いそいそと恋人のために料理を作る羽鳥の姿こそが、おそらく恋をしている人間の姿として正しいと思われる。
その他に千秋が恋人のルーチンとして行っていることは、
『差し入れをねだる』
『勝手にベッドを占領する』
『原稿の取り立てから逃げる』
『家事をしてもらっているのを横目に昼寝をする』
このような感じだろうか。
どう見ても努力義務を放棄しているとしか思えない。
友人の柳瀬が言うように、羽鳥はドMだからもしかしたらこれを喜んでいるのかもしれない。
しかし千秋はこの一連の行いを差して恋と称する勇気がなかった。
ならば肉体関係はどうだ。
(に、肉体関係……)
千秋は己の言葉にまたも赤面した。
ありていにいえば、千秋と羽鳥はやることはやっている間柄である。
これを根拠に恋人だ、と言ってもいいかもしれない。
ではその行為を恋と呼ぶかどうかはまたも思案を要する疑問であった。
当然好きな相手だからできることだが、やっぱり千秋はそこに自分の努力の痕跡を見つけられなかった。
流されてばっかりだし、と思ってしまう。
努力の余地があるのはどういう方向だろう、と千秋は考えた。
清い方向での努力となるとメール、電話、手作り料理、プレゼント、ラブレター、交換日記等々恥ずかしいアイデアばかりが出てくる。
毎日羽鳥に、
「好きだよ」
と電話で囁けば良いのか。
あるいは毎日羽鳥の家へ通い妻をし、掃除洗濯料理に励めば良いのか。
そのようなことできるはずがない。
前者は実行すればその後一ヶ月はまともに羽鳥の顔を見られないだろうし、後者は気持ちが伝わってもその五十倍は迷惑をかけるに決まっている。
それよりは一応大人同士の恋愛として、しっとりと、あるいは激しく夜の努力をした方がいいかもしれない。
この一、二年の観察の結果、羽鳥は相当エロいことが好きであることがわかった。
恋人にこのような名を冠するのはやや抵抗がある千秋だったが、世間ではおそらく『ムッツリスケベ』と分類されることに全力で否定はできなかった。
ならばそういった方面のご奉仕をすれば羽鳥は喜んでくれるはず。
ようしこれで決まりだ、これで勝てる!
何に勝つのかはよくわからないが、千秋は拳を握りしめ意気込み、その三秒後に意気消沈した。
羽鳥と付き合うまで、干からびたような恋愛遍歴しかない男が一体何をしようというのだ。
これまでに千秋がかろうじて自分から何かしらしたことと言えば、唇に触れるだけのキスをしたことと、自ら羽鳥の上にまたがって腰を抜かしたことくらいだ。
恥ずかしいことを色々言ったこともあるが、あれはどちらかと言えば自分で言ったというよりも言わされた感が強い。
悔しいが、羽鳥のいいように掌で転がされているだけなのだ。
「もういい。やめた」
デザートまできっちりと食べ終えた千秋は、そう言って再びソファーに寝転がった。
どうぜ自分にできることなんて何もないのだ。
世間の人はこんな自分が真面目に恋愛をしているなんて思っちゃくれないだろうが、もはや仕方ない。
結局はこの性格が直らない限りどうしようもないのだ。
ふん、もう知らん、と千秋はふてくされた。
キッチンへ向かおうとした羽鳥は、そんな千秋の様子に気付いて戻ってきた。
そっと隣に腰かけて、顔を覗き込まれる。
「どうした?体調でも悪いのか」
「……別に」
落ち込んでいるときに優しい言葉をかけられると、ますます千秋は自分がダメ人間に思えてくる。
そして、こんな自分を好きになってしまったこいつは本当にかわいそうだ、と千秋は思った。
かわいそうだけれど、解放してやるには千秋も羽鳥のことを好き過ぎるのだった。
「なんかさ、俺ってすっごくラッキーなのかも」
「ラッキーだと思ってる顔じゃないぞ」
冷静な羽鳥の突っ込みにも構わず、千秋は続けた。
「俺、ダラダラするのが好きじゃん?」
「そうだな」
「で、俺とお前って付き合ってるじゃん?」
「……ああ」
「ダラダラしながら恋愛できる、俺って超ラッキーだなって思った」
千秋の言動が突拍子もないことは日常茶飯事だが、嬉しさが加わったことにより羽鳥は動揺した。
動揺はしたが、訓練された男の身体であるので、その次の行動を間違えることはしない。
すなわち、接吻とか抱擁とか、そういう行為のタイミングには敏い男であった。
千秋の身体を引っ張り上げるか覆いかぶさるか少し迷ったが、とにかく抱き締めて唇を吸った。
羽鳥との恋愛について色々考えていた千秋は知恵熱の微熱版のようなものが出ていたようで、されるがままに羽鳥の愛撫を受けている。
「どっちかといえばラッキーなのは俺の方だと思うんだが」
「そうかな」
「ダラダラと飯食ったり昼寝してるだけで俺のことをここまで喜ばせられる奴は他にはいないだろ」
「……そっか」
うまく働いていない脳で、あっさりと千秋は納得した。
そうか、そうか。
飯食ってるだけで俺はよかったんだな、と。
世間の人は何というかわからないが、当分世間にお披露目する予定はないから別にいいだろう。
当事者の羽鳥がこれでいいと言うのならこれでいいのだ。
これは紛れもなく恋愛である。
そう、誰が何と言おうとも。
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