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運動会に遠足に学芸会に、秋は小学生にとっておおいそがしの季節だ。
そんな行事だらけの学校生活のまっさいちゅう。
今日から一週間秋彦がいない。
※
月曜日。
小学生が一週間も学校を休むというのはなかなかハードなことだと思う。
「けんこうゆうりょうじ」の俺は去年も一昨年も終業式には皆勤賞の賞状をもらったけど、
風邪で一日学校を休むことだって俺たちにとったらビッグイベントだ。
朝みんなが登校するのを布団の中から見てたりなんかして、ふしぎにわくわくしたりして。
朝の会でせんせいが、宇佐見くんは今週お休みですと言った瞬間、
女子たちがきゃーきゃー悲鳴をあげた。
休み時間になると俺の席に走りよってきて、宇佐見くんどうしたの?って質問攻めだ。
秋彦は別に病気なんかじゃなくて、ただ一週間家にいないだけだっていうことを俺は知ってる。
ちゃんと秋彦はいなくなる前に俺にほーこくしてくれたから。
でも理由は、かていのじじょうなんて言っててよくわからなかった。
これは秋彦がそう言ったわけじゃないけど、
秋彦はこのことをあんまりみんなに知られたくないんじゃないかと思う。
そこは隊長としてのスイリだ。
だから俺は「しらねーよ」と質問をつっぱねてやった。
女子はブーブー言ってたけど、男の友情っていうものがあるからな。
頭の中で友と情っていう字がチカチカして秋彦の顔と重なって、
そこで初めて誰も座ってない隣の席に気付いて、ちょっとだけ、
ほんとにちょっとだけさびしいなんて思ったりなんかしてしまった。
※
火曜日。
秋彦がいないからっていうわけじゃないけど、
俺たちの秘密の場所になんとなく足が向かなくて、
俺は真面目に水泳教室に行っていた。
教室が終わって頭をふきながら歩いてると、女の子が近づいてきた。
同じ水泳教室に通ってる、クラスの女の子だった。
いつも秋彦のことで騒いでるグループの子だったと思う。
「クッキー焼いたんだけど…、あげる!」
そう言うとリボンのついた小さい袋をくれた。
秋彦に渡してほしい、とかそんなんでもないみたいだ。
よくわからないけど、ついお礼を言って受け取ってしまった。
帰って母さんに見せると、
「ヒロちゃんもスミにおけないわねえ。」
とにこにこされてしまった。
スミにおけないってどういう意味だ?
また辞書で調べてみよう。
※
水曜日。
下校途中でネコを見つけた。
近所のおばさんがかわいがってるネコで、おばさんはクロって呼んでる。
でもそのクロは全然知らない家に入っていって、エサをもらってた。
あと名前もクロじゃなくて、チビすけって呼ばれてた。
自分がかわいがってるネコが、別の場所で別の名前で呼ばれてたらちょっと寂しいと思う。
ネコにも色々ヒミツがあるっていうことがわかった。
※
木曜日。
秋彦がいないってことはわかってるけど、
ついいつもの場所に行ってしまった。
そしたら秋彦んちの田中さんに見つかってしまった。
「すみません、秋彦様はまだお戻りではなくて…。」
田中さんはそう言って一冊の本を渡してくれた。
秋彦に今借りてる本の続きだ。
「『たぶん弘樹はそろそろ前に貸したやつ読み終わるから』と、ことづかっておりまして。」
どうやら秋彦には俺の読書ペースもつかまれているらしい。
※
金曜日。
図書館の本は全部せいはしてしまったので、秋彦から借りた本を読んでいる。
いつも本を読むときは秋彦がなんとなく隣にいるけど、
今日は図書館のすみの席に一人。
ミョーに落ち着かない。
さっきも図書委員の6年生に声をかけられてしまった。
「今日はキミ一人なんだ?」
なれなれしかったので、新しく図書館に入った本があるよ、と言われたけれど、
読みたい本があるからいいですと断ってしまった。
「そう、残念だな。ほしい本あればいつでも言えよ。」
頭をなでられそうになったから手をふりはらって席についた。
「いつものカワイイお友達にヨロシク。」
秋彦のことを言われるとなんだかムカムカする。
秋彦んちの「かていのじじょう」はよく知らないけど、
あいつがあんまり笑顔を見せない原因だと俺はニラんでいる。
秋彦、今つらかったりしないかな。
そんなことを考えながら、呪いをかけられたお姫さまの行方を追うべく俺はページをめくった。
窓の外はピンクと水色のまざりあった空。
なんだか秋彦がいなくなってから日が暮れるのが早くなったみたいだ。
※
土曜日。
剣道教室の帰り道。
そうしたら道の途中で、遠足みたいな子どもたちが歩いてた。
子どもっていっても幼稚園児から中学生くらいまで、年がバラバラでふしぎな感じだ。
せんせいも、幼稚園のせんせいみたいな感じ。
道で人に会ったときは、元気よくこんにちは!
俺は学校で教えられたとおりにあいさつをした。
せんせいみたいな人はこんにちは、ってあいさつを返してくれて、
ちょっとようすを観察してたら、今日はなんとか園の遠足なんだよ、って教えてくれた。
道着の入った袋をかかえ直して帰ろうとしたら、男の子にぶつかってしまった。
小学校低学年か?小学生より小さいか?
上も下も黒い服を着てて、黒目がやけにでかくで、ポーっとしてる子だった。
「ごめん、だいじょうぶか?」
その子はじーっと俺を見てたんだけど、
俺があやまって頭をなでたら、急にニコっとされてびっくりした。
な、何がうれしかったんだコイツ!と俺は少しキョドウフシンになってしまう。
その真っ黒い子犬みたいな子に手を振りながら帰り道についた。
またどっかで会ったりするんだろうか。
※
日曜日。
秋彦が帰ってきた。
俺は思わず「平気だったか?」って聞きそうになったけど、
いつものすました顔を見たら、ことばを飲み込んでしまった。
だって、今日からはまたいつもの生活が始まるんだから。
「この一週間で、何か変わったことあった?」
「…別になーんにもなかったぞ。」
明日からはまた、秋彦のいる生活。
END
★★★
ポーの一族が好きですいません。
オマージュ…。
だってミニマムウサギさんとヒロさんはそんなイメージなんだもの!
そんな行事だらけの学校生活のまっさいちゅう。
今日から一週間秋彦がいない。
※
月曜日。
小学生が一週間も学校を休むというのはなかなかハードなことだと思う。
「けんこうゆうりょうじ」の俺は去年も一昨年も終業式には皆勤賞の賞状をもらったけど、
風邪で一日学校を休むことだって俺たちにとったらビッグイベントだ。
朝みんなが登校するのを布団の中から見てたりなんかして、ふしぎにわくわくしたりして。
朝の会でせんせいが、宇佐見くんは今週お休みですと言った瞬間、
女子たちがきゃーきゃー悲鳴をあげた。
休み時間になると俺の席に走りよってきて、宇佐見くんどうしたの?って質問攻めだ。
秋彦は別に病気なんかじゃなくて、ただ一週間家にいないだけだっていうことを俺は知ってる。
ちゃんと秋彦はいなくなる前に俺にほーこくしてくれたから。
でも理由は、かていのじじょうなんて言っててよくわからなかった。
これは秋彦がそう言ったわけじゃないけど、
秋彦はこのことをあんまりみんなに知られたくないんじゃないかと思う。
そこは隊長としてのスイリだ。
だから俺は「しらねーよ」と質問をつっぱねてやった。
女子はブーブー言ってたけど、男の友情っていうものがあるからな。
頭の中で友と情っていう字がチカチカして秋彦の顔と重なって、
そこで初めて誰も座ってない隣の席に気付いて、ちょっとだけ、
ほんとにちょっとだけさびしいなんて思ったりなんかしてしまった。
※
火曜日。
秋彦がいないからっていうわけじゃないけど、
俺たちの秘密の場所になんとなく足が向かなくて、
俺は真面目に水泳教室に行っていた。
教室が終わって頭をふきながら歩いてると、女の子が近づいてきた。
同じ水泳教室に通ってる、クラスの女の子だった。
いつも秋彦のことで騒いでるグループの子だったと思う。
「クッキー焼いたんだけど…、あげる!」
そう言うとリボンのついた小さい袋をくれた。
秋彦に渡してほしい、とかそんなんでもないみたいだ。
よくわからないけど、ついお礼を言って受け取ってしまった。
帰って母さんに見せると、
「ヒロちゃんもスミにおけないわねえ。」
とにこにこされてしまった。
スミにおけないってどういう意味だ?
また辞書で調べてみよう。
※
水曜日。
下校途中でネコを見つけた。
近所のおばさんがかわいがってるネコで、おばさんはクロって呼んでる。
でもそのクロは全然知らない家に入っていって、エサをもらってた。
あと名前もクロじゃなくて、チビすけって呼ばれてた。
自分がかわいがってるネコが、別の場所で別の名前で呼ばれてたらちょっと寂しいと思う。
ネコにも色々ヒミツがあるっていうことがわかった。
※
木曜日。
秋彦がいないってことはわかってるけど、
ついいつもの場所に行ってしまった。
そしたら秋彦んちの田中さんに見つかってしまった。
「すみません、秋彦様はまだお戻りではなくて…。」
田中さんはそう言って一冊の本を渡してくれた。
秋彦に今借りてる本の続きだ。
「『たぶん弘樹はそろそろ前に貸したやつ読み終わるから』と、ことづかっておりまして。」
どうやら秋彦には俺の読書ペースもつかまれているらしい。
※
金曜日。
図書館の本は全部せいはしてしまったので、秋彦から借りた本を読んでいる。
いつも本を読むときは秋彦がなんとなく隣にいるけど、
今日は図書館のすみの席に一人。
ミョーに落ち着かない。
さっきも図書委員の6年生に声をかけられてしまった。
「今日はキミ一人なんだ?」
なれなれしかったので、新しく図書館に入った本があるよ、と言われたけれど、
読みたい本があるからいいですと断ってしまった。
「そう、残念だな。ほしい本あればいつでも言えよ。」
頭をなでられそうになったから手をふりはらって席についた。
「いつものカワイイお友達にヨロシク。」
秋彦のことを言われるとなんだかムカムカする。
秋彦んちの「かていのじじょう」はよく知らないけど、
あいつがあんまり笑顔を見せない原因だと俺はニラんでいる。
秋彦、今つらかったりしないかな。
そんなことを考えながら、呪いをかけられたお姫さまの行方を追うべく俺はページをめくった。
窓の外はピンクと水色のまざりあった空。
なんだか秋彦がいなくなってから日が暮れるのが早くなったみたいだ。
※
土曜日。
剣道教室の帰り道。
そうしたら道の途中で、遠足みたいな子どもたちが歩いてた。
子どもっていっても幼稚園児から中学生くらいまで、年がバラバラでふしぎな感じだ。
せんせいも、幼稚園のせんせいみたいな感じ。
道で人に会ったときは、元気よくこんにちは!
俺は学校で教えられたとおりにあいさつをした。
せんせいみたいな人はこんにちは、ってあいさつを返してくれて、
ちょっとようすを観察してたら、今日はなんとか園の遠足なんだよ、って教えてくれた。
道着の入った袋をかかえ直して帰ろうとしたら、男の子にぶつかってしまった。
小学校低学年か?小学生より小さいか?
上も下も黒い服を着てて、黒目がやけにでかくで、ポーっとしてる子だった。
「ごめん、だいじょうぶか?」
その子はじーっと俺を見てたんだけど、
俺があやまって頭をなでたら、急にニコっとされてびっくりした。
な、何がうれしかったんだコイツ!と俺は少しキョドウフシンになってしまう。
その真っ黒い子犬みたいな子に手を振りながら帰り道についた。
またどっかで会ったりするんだろうか。
※
日曜日。
秋彦が帰ってきた。
俺は思わず「平気だったか?」って聞きそうになったけど、
いつものすました顔を見たら、ことばを飲み込んでしまった。
だって、今日からはまたいつもの生活が始まるんだから。
「この一週間で、何か変わったことあった?」
「…別になーんにもなかったぞ。」
明日からはまた、秋彦のいる生活。
END
★★★
ポーの一族が好きですいません。
オマージュ…。
だってミニマムウサギさんとヒロさんはそんなイメージなんだもの!
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