絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
これはトリチアキスアンソロに寄稿したやつですね!?
2014年春コミ発行のアンソロなので4年前だ!!
手前味噌ですけど理想のトリチア感がコンパクトにまとまってて、読み返してそうなんだよな~ってなりました笑。
頒布終了からけっこう経ってるようなのでブログに再録させてもらいます。
アンソロ参加させていただいてありがとうございました。
+ + + + + + + + + +
俺の部屋に入り込んだ吉野の行動には全て、断りなく、という注釈がつく。
断りなく冷蔵庫を開け、断りなくものを食べ、断りなく風呂を使い、断りなく俺のベッドで眠る。
吉野以外がこういう振る舞いをしていたら図々しいやつだと軽蔑するかもしれないが、吉野だからしょうがないと思える。
ダブルスタンダードだと笑われそうだが、人間とはそういうものであろう。
許してはいるけれど腹は立つ、というのが適当な表現だろうか。
吉野の方にしたって俺にはやりたい放題だけれども、案外小心者なので俺以外の人間に対してはもっと遠慮がちに接している。
これくらい別にいいだろ、などという口がたたけるのも相手が俺だからなのだ。
自分で言うのも口幅ったいが、吉野が俺を特別だと思ってくれている証拠である。
欲を言えばもう少しマシなことで特別であるということを感じたいものだが、高望みをしてもしかたがない。
吉野がこれだけ心を許しているのは現時点で俺くらいのものである、というつまらない自己肯定をしながら脱ぎ散らかされた服を洗濯機に放り込むのだった。
抱えた服が汗臭かったので、おそらく三日間くらい風呂に入っていないと思われる。
「はー、さっぱりした!」
「さっぱりするなら自分の家の風呂でしてくれ」
「まーまー、固いこと言うなって」
俺とお前の仲じゃん、と肩を叩かれたが、それはどういう仲のことを指しているのかと尋ねてもぽかんとされるだけだろう。
余計な期待はしない方が吉なので、とくに返事はせずに無言で洗濯物を取り出しに行った。
「あ、洗濯までしてくれたの?さんきゅー」
「その辺に脱いだものを散らかされてるのが不快なだけだ」
「いやあ本当に羽鳥おかあさんは……あ、嘘、冗談だって」
俺の眉間に皺が寄ったのを目ざとく見つけた吉野は慌てて言いかけた言葉を訂正する。
「誰も好き好んでお前の母親みたいな真似をしてるわけじゃない」
ぎゅっと吉野を頬を掴むと、ごめんごめんと謝られた。
「次からは自分で洗濯機に入れるようにするから。な?」
「……洗濯をするのは結局俺なんだな」
はあ、という俺のため息が耳に届く前に、吉野はビールを取りにキッチンへ行ってしまった。
仕方がないので俺も風呂に入るためにバスルームへ向かったのだった。
(風呂を散らかすというのが許されるのは小学生までだと思っていたが)
どうやったらあんな場所までシャンプーの泡が飛ぶのだろうと思いながら髪を洗い、と同時に吉野の裸体を思い浮かべてしまったので頭を振って余計なことは考えないようにした。
吉野が俺の家で我が物顔で振る舞うのは今に始まったことではない。
昔からそのつど小言を言ってきたような気がするが、未だに改善の兆しはない。
恋人になったから多少はそういったことも可愛く見えてくるかと思ったが、この頭の固い性格が災いしてムカつくものはムカつく、ということになっている。
一週間風呂に入らずに異臭を放っていたり、キッチンに汚れた皿を山盛りにしておくような恋人を許容する度量はどうやら自分にはなかったようだ。
例え吉野がかわいい顔をして許して、とお願いしても、たぶん俺は小言を止めないだろう。
(あいつの方もそういうことをしないけれど)
恋人の特権、という単語は吉野の頭の中にはないらしい。
恋人だから盲目的にかわいいと思えない俺と、恋人の特権を使う気のない吉野。
ある意味お似合いなのかもしれない、などと妙な自惚れをしながら風呂から上がると、二本目の缶ビールを持った吉野が俺の方を見て手招きしていた。
「今日も一日おつかれさまです」
「どうもありがとうございます」
乾杯、と缶ビールを傾けると、吉野はけらけらと笑った。
「はは、サラリーマンみたい」
「俺の方は、みたい、じゃなくてそのものだけどな」
「だって俺は自由業だもーん。仕事お疲れ様って酒飲む相手なんてトリくらいだし」
全然それでいいんだけどさ、と吉野は付け加えた。
吉野にとって俺は恋人である前に幼馴染みであり仕事相手なのだろう。
この仕事を選んだのは吉野の側にいるためだが、俺たちの関係をより複雑にしているような気もした。
「なあ、トリ」
アルコールのせいで少し頬を上気させた吉野が口を開いた。
「打ち合わせとか、あと俺が締切破ってお説教されてる時って、その……」
口を開いたかと思えば急に口ごもる。
「何が言いたいんだ」
先を促してやると、もごもごと言いづらそうにこんなことを言った。
「そういう時って、俺のことどういう目で見てるのかな、って」
「それは、」
「やっぱいい!忘れろ!」
俺が返事をする前に、手のひらで口を塞いできた。
その手をあっさりとひっぺがして、指先にキスをしてやる。
「こういうことしたいと思ってるかって話?」
「っ、バカ!」
言いづらそうにしているから俺の方で言ってやったのではないか。
掴んだ手は振り払われなかったけれど、吉野は顔を真っ赤にしている。
吉野の目を見ながら、俺は答えた。
「わからん」
「はあ?」
「わりと常にお前とこういうことをしたいとは思っているんだが、仕事の話をしている時には表に出せないというか」
「な、なんのカミングアウトだよ……」
我ながら損な性分だと思う。
仕事のことで俺が優位な立場にあれば、それを口実に強引に吉野に迫ることもできると思う。
だけど、俺にはそれができない。
それは俺が理性的だからというわけではない。
ただ臆病なだけなのだ。
「せめて仕事のことだけでは、お前の信頼を裏切ったり失望されたくないんだ」
俺はそれが怖いと告げると、吉野は戸惑ったような顔をしながらも背中を撫でてくれた。
「トリは真面目だから、俺が仕事のことでトリに失望とかぜってーないし」
「ありがとう」
「それに、例えば俺が締切ぶっちぎった挙句に『エロイことしてあげるから許して?(はーと)』みたいなこと言い出したらお前は許してくれるのかよ!?」
「……許せないな。締切は守れ」
「だろ?だから大丈夫だって!」
ばしばしと背中を叩かれて、ようやく俺は表情を緩めることができた。
普段は吉野の世話をしているつもりでも、一番大事な部分のイニシアティブは吉野が握っているような気がする。
「なんていうか、トリって公私混同が下手くそだよな」
ぽつりと吉野が言った。
要するにそういうことなのかもしれない。
「そうかもな」
「ま、まあ、そういうとこが俺は好きっつーか、嫌いじゃないっつーか」
「吉野……」
数センチ顔を近づけて、吉野の目をじっと見る。
俺のしたいことを察したのだろう吉野がそっと目を閉じた。
嬉しいという気持ちを込めて、唇を重ねる。
小さく漏れる吐息が俺の口元を掠め、ぞくぞくとした興奮が走った。
「ん……トリ……」
震える声で俺のことを呼びながら、肩にしがみつく吉野に愛しい気持ちが溢れそうになる。
本当はいつだって吉野とこういうことをしていたい。
プライベートでも仕事でも。
だけど公私混同が下手な俺を吉野は好きだと言ってくれるのだから、頭の固いこの性分もそんなに捨てたもんじゃないのかもしれない。
口の端の唾液を舐めるようにして唇を離すと、くたりと吉野が身体を預けてきた。
俺の胸に顔を埋めて小さな声で吉野が言った。
「俺もさ、キス、とかしてれば仕事で甘くしてもらえるとか思ってないから」
「ああ、わかってる」
「だから、そういうことする時は、ほんとにただしたいだけ、だから」
ちゃんと覚えておけ、という吉野は首筋まで真っ赤で、俺は本当に吉野を好きになってよかったと思った。
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