忍者ブログ
絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
[1315] [1314] [1313] [1312] [1206] [1261] [1311] [1310] [1309] [1308] [1307]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2015年の夏コミで発行したバクステ本の再録です。
お手に取ってくださった方、どうもありがとうございました!
聖湖と玲のカップリングが本当に大好きなので一冊は本を出したいなーと思ってたので出せてよかったです。


聖湖が玲とのいちゃいちゃ写真をツイッターで誤爆して炎上…という話です。



拍手[3回]


+ + + + + + + + + +






瀬名家のリビングでパソコンのキーボードを叩きながら黙々と玲が仕事をしていると、ふわりとコーヒーの香りが漂ってきた。
「玲くん、おつかれ。少し休憩したら?」
「聖夜さん……」
「ずっとパソコンとにらめっこでしょ」
ありがとうございます、と玲はコーヒーを受け取った。
一口飲むとほうと一息つく。
今では聖夜は片思いの相手ではなくなったとはいえ、こうして優しく玲のことを気にかけてくれるのはとても嬉しい。
「僕はパソコン音痴だから、こういう仕事は全部玲くんに任せちゃってるからね」
「いえ、気になさらないでください」
マネージャーとして現場を駆け回ることも多い玲だが、やはりこういったデスクワークも多くなる。
どれどれ、と聖夜が画面を覗き込むとそこに映っていたのは聖湖のツイッターのホーム画面だった。
「あ、これは……仕事で……」
聖夜と目が合った玲は口調がややしどろもどろになる。
本当に後ろめたいことは何もないのだが、先日聖夜と渚夫妻の前で聖湖との交際宣言をしたばかりだったので何となく聖夜の視線が気になってしまう。
「はは、別に僕は何も言ってないよ」
「すみません、つい」
付き合いたての初心なカップルではないのだからと、玲は過剰に意識してしまった自分を恥じた。
別に今さら聖湖のツイッターを見ようがまったくときめきなどないのだが、恋人の動向を仕事中に確認していたようで恥ずかしい。
逆に言い訳めいたことを口にしてしまったことで墓穴を掘った気がする。
そんな玲の心中をよそに、聖夜はふむふむと言いながらパソコンを画面を見つめていた。
「聖湖は楽しそうにやっているみたいだね」
「ええ、こういうの向いているみたいです」
聖夜の言葉に玲も頷く。
聖湖がツイッターを始めると瞬く間にフォロワーは十万人を突破し、四年経った今では四十万人を超えている。
ブログ同様その独特の口調で語られる言葉は人気で、聖湖自身もリアルタイムでファンからのメッセージを受け取ることができるツイッターを気に入っているようだった。
自分のツイートがたくさんリツイートされることも嬉しいらしく、「○○だったらリツイート(笑)」というようなこともよく書いている。
元来のお調子者な性格が災いして余計なことも投稿してしまい、外村が頭を痛めることもあるのだが。
しかし基本的にマネージャーである外村が目を通して内容をチェックしてはいるものの、基本的には聖湖の自主性に任されている。
「ファンからのメッセージも多いみたいだねえ。こうやってすぐにファンの声が届くのは嬉しいだろうね」
「聖夜さんも始めてみますか?」
「いいよ、僕は。携帯電話と向き合ってる時間が増えたら渚と過ごす時間が減るからね」
「それは失礼しました」
相変わらずのラブラブ夫婦だ、と玲は苦笑した。
「だけど、こんなことを言うのもなんだけれど好意的なメッセージばかりじゃないだろう?」
「それはまあ……多少はあるでしょうね」
ブログのコメント欄はある程度事務所側でチェックをしてから承認されるが、ツイッターはそうもいかない。
膨大なファンからの「楽しみです」「嬉しいです」「好きです」などといったリプライに紛れて、多少は悪意のあるものもあると外村から聞く。
ただ聖湖本人はあまり気にしていないらしく、ブロック機能を使うこともほとんどないようだ。
ラブアンドピースが服を着て歩いているような男だから納得だと、玲はその話を聞いたときに笑ったものだ。
「批判を受けやすいタレントだとこういったSNSで炎上する騒動もあるようですが、聖湖は一般ファンからの好感度が高いですからね」
「じゃああまり問題はないようだね」
「幸いに」
天真爛漫で思ったことをすぐ口に出し行動に移してしまう聖湖の性格ながら、これまで炎上騒ぎが起きたことはない。
あまり本人の前で褒めることはないが、これも聖湖の人柄のおかげだと玲は思っている。
言動や行動は突飛だけれど、人に優しく自分に厳しいのが瀬名聖湖という人間だ。
そして玲は聖湖のそういう部分に惹かれている。
そんなことを考えながら聖湖のツイートを眺めていると口元が自然に綻ぶのがわかり、慌てて表情を引き締めた。




「……という話を聖夜さんとしていたんだが」
「デート中なんだから他の男の話しないでよ~」
拗ねたような声を出しながら、聖湖は玲に大袈裟に抱きついた。
これが街中ならば馬鹿な真似をするなと突っぱねるところだが、ここは玲の部屋、しかもベッドの上なので好きなようにさせておく。
ごろごろと猫のように上半身を摺り寄せて思う存分甘えると、iPhoneを取り出してサイドテーブルの上に置いた。
「ま、でもツイッター楽しいよね。いっぱいリツートしてもらえるとちょーテンション上がる」
「ブログと違ってノーチェックで書き込みしてるんだから誤爆とかするなよ」
「えーー、大丈夫だよお」
「泉水探し回った時に意味不明のツイートしまくっただろ」
「あ、あれは緊急事態っていうか……。とにかく、俺はファンのことが超大事だからファンを心配させるようなことはしません!」
そう言って聖湖は胸を張る。
「逆にお前が何か面倒なことに巻き込まれそうになったらさっさと報告するんだぞ」
「ん、りょーかい。まあ大体のことはそとむーがなんとかしてくれてるから俺は別に大丈夫だけどね」
でも、と聖湖は口元を緩ませた。
「玲が心配してくれるのは嬉しいな」
「はいはい」
聖湖がデレデレとしているのに対して、相変わらず玲の態度はそっけない。
甘い言葉にも照れることはなく、しかしじっと聖湖の目を見つめながら眼鏡を外した。
「で、やるのか?やらないのか?」
「やります!」
恋人同士の甘い雰囲気には絶対に飲まれないくせに、気分さえ乗っていればこの上なく積極的なのも玲の性分だった。
そして聖湖は玲のそんなところがとても好きだった。
出会った頃から身体の繋がりだけで始まった関係だ。
やることは即物的でも、心はあとからゆっくり溶かしていけばいい。
そう思えるだけの余裕が今の聖湖にはある。
素直な言葉は聞けなくても聖湖は玲に愛されているのはちゃんとわかっているし、言葉にして聞きたかったらその氷の理性をどろどろにとかしてやればいいことも知っている。
「玲に触るの一週間ぶりだからすごく嬉しい」
「ん……たった一週間だろ……」
聖湖から落とされるキスを受けながら玲が笑う。
触ったのは一週間ぶりだとしても、仕事絡みで事務所で顔を合わせることは多いのだ。
「だって外で会っても玲ってばツンツンしてるしさ~」
「当たり前だろ。外でこんなことできるか」
「きもちいーこと好きなくせに」
聖湖は器用にシャツのボタンを外し、玲の勃ち上がりかけた乳首を摘んだ。
よく感じやすいと聖湖から揶揄される玲だが、両想いになってからはますます感度が上がったようだ。
「うるさ……い、あっ、ん……」
押し倒され唇を寄せられて乳首を甘噛みされると、玲は腰をくねらせるようにして身悶えた。
我慢できないのか自分でズボンのファスナーを下ろし、自らの手を伸ばす。
聖湖はそれに気付いたが、とくにそれを止めようとはしなかった。
「……聖湖……」
下半身に手を出してこない聖湖に逆に焦れた玲は、視線を逸らして自身を慰める動きをし始めた。
「あー、玲はかわいいなー。もっと見せて?」
「ばか、なんで押し倒しとてなんにもしねーんだよ」
「や、こういうプレイもいいかなって思って」
こっちは俺が弄ってあげるから、と赤く熟れた胸の突起を押し潰してやると、玲は喉の奥で鳴いた。
先走りを滴らせる先端を指の腹で擦り、びくびくと肩を震わせる様子を見て聖湖は生唾を飲む。
「なあ、しょーご……イキそ……」
「うう……」
「あ……ッ、一人でイったらこのまま寝ちまうかも……」
「ううう……」
「……そしたらお前、一人で抜いてろよ……?」
「わーーーもう、俺の負け!ごめん!触らせてください!」
がばっと玲の上で覆いかぶさるようにして土下座スタイルをとると、聖湖は腰のあたりに抱きついた。
素肌に舌を這わせると、玲の腹筋が気持ちよさそうに震えた。



結局聖湖に主導権を握られた玲はそのまま二回戦まで持ち込まれ、息も絶え絶えになりながら隣に寝そべる聖湖を見つめていた。
目を閉じているものの、愛おしそうに玲の髪を撫でている。
ピロートークの甘い雰囲気を求めているわけではないが、この慈しむような時間を心地よく思えるのはそれだけ聖湖のことを愛しく思っているせいだろう。
以前の玲だったらこんな風に甘い時間を過ごすなど思いもよらないことだった。
「聖夜さんも渚さんも本当に心が広いよな」
どこの馬の骨ともわからない自分を拾って家族の一員のように扱い、挙句の果てには大事な息子までくれると言う。
日頃から只者ではないと思っている人たちだが、実際に聖湖とこうやって恋人らしいことをしていると改めてその凄さを実感する。
瀬名一家に対する罪悪感というのは彼らが完全に消し去ってくれたので、玲はただ聖湖のことを幸せにしなければと思うだけだ。
こんなこと口が裂けても本人の前では言えないが。
しかし、と玲は思い直す。
瀬名一家は玲を聖湖の恋人だと認めてくれているが、他にもまだ気にかかる存在がある。
聖湖のファンたちだ。
もちろん多くのファンは『芸能人とファン』という距離感で応援してくれているとは思うが、やはり聖湖を異性として見ている女性も多い。
それくらいの魅力があるからこそ芸能界で成功できるとも言えるのだが、芸能マネージャーである玲はファンの存在を忘れることはできなかった。
仕事とプライベートは別物ではあるのだろうが、芸能人のプライベートはある意味プロモーションの一環だ。
結婚した途端ファンレターが半分に減るなどという話はよく聞くし、非常にデリケートな問題だ。
超人気アーティストである聖湖が交際をカミングアウトなどした日には阿鼻叫喚となるのは目に見えているし、その場合一番面倒くさいことになるのは玲であることは間違いない。
そんなことをぐるぐる考えているうちに、隣からは規則正しい寝息が聞こえてきた。
「……面倒なことだけにはするなよな」
一生聖湖の側にいる覚悟はできているが、それでも今はアーティストとしての聖湖の支えになりたい。
そのために自分が障害となるような事態は避けたいし、本音を言えば面倒なことには巻き込まれたくない。
現状に不満があるわけではないし、二人きりの時間は穏やかなまま続いていってほしいと思う。


そんな玲のささやかな願いもむなしく、頭の痛い事態に巻き込まれることになったのだった。



「玲、ごめん」
翌朝玲が目を覚ますと、聖湖に神妙な顔で謝罪された。
聖湖が謝るなどロクなことではないに決まっている。
「待て。言うな」
「でも……」
「せめて顔を洗うまで最悪なニュースは耳に入れたくない」
「でも……遅かれ早かれてゆーか……」
聖湖がごにょごにょと歯切れ悪く何事かを言う前に、玲の携帯電話の着信音が鳴り響いた。
「相楽さん!本当にすみません!」
「外村か?何があった?」
電話の相手は聖湖のマネージャーの外村だ。
電話に出るとものすごい勢いで謝られた。
「聖湖さんのツイッターを……いや、もう削除はしてあるんですが、どうやって説明するのが……」
「いい、話は事務所で直接会って聞く。それまでに当事者にしっかり事情を聴いておくから」
はい、と震える声で返事をしたのは外村ではなく聖湖だった。
通話を終了すると、満面の笑みを浮かべて玲は聖湖の方を振り向いた。
「で、何があったのかな、聖湖くん?」
「……………………スミマセン、誤爆シマシタ……」
頭を下げながら聖湖がiPhoneの画面を見せてくる。
そこに映っているものは、『ひさしぶりのお泊りデート♥』というコメントに玲の裸の肩が写った写真が添付されたツイートだった。
「いやあ、そとむーが気付いて早めに削除してくれたんだけどね?拡散力ってすごいね~~~」
あはははは、と笑う聖湖を見つめる玲の目は死んでいる。
「てめえ、すごいねじゃねえよ!なんかよくわかんないけどこの数字が多いのってヤバいんだろ!?」
「や、ヤバいかな~……」
「そもそもどうしてこんなこと投稿するんだ!馬鹿か!芸能人の自覚はどこへ置いてきた!?」
「ひさしぶりに玲といっしょで嬉しくて浮かれちゃったってゆーか」
聖湖曰く、こんなツイートをしたら大変だろうなというスリルを感じようとしたら手が滑って本当に投稿していたらしい。
マネージャーとしてアカウントの管理もしている外村が気付いたときには相当数リツイートされており、慌てて削除するもツイートのスクリーンショットが出回り今朝に至るというわけだそうだ。
「……とにかく、事務所で今後の方針を話し合おう」
素早くスーツに着替えた玲がそう言うと、叱られて耳を垂れた犬のようにしょんぼりとした聖湖はおとなしくあとをついてきたのだった。




事務所に入ると、外村が青い顔をして駆け寄ってきた。
「あの、相楽さん……」
「状況はどうなってる」
「今はまだファンが騒いでるだけですが、メディアがネットニュースの記事を出すのも時間の問題かと」
そうか、と玲はため息をついた。
パソコンの電源を入れて聖湖のツイッターにログインすると、問題のツイートは消されているものの聖湖宛てのリプライがすごいことになっている。
玲がおそるおそる読み始めるが、すぐに首を傾げた。
「非難……じゃない……?」
もっと口汚く罵られているかと覚悟して見てみたが、並んでいるメッセージは『信じてます』やら『大丈夫ですか?』といった言葉だ。
玲が拍子抜けしていると、外村は首を振って見せた。
「相楽さん、こっちです」
そう言って「聖湖」「SHOGO」といったキーワードで検索して見せると、そこにはずらっと口さがない言葉が並んでいた。
聖湖が『誤爆』したと言ったツイートのスクリーンショットに見るに堪えない言葉が添えられている。
「完全にこっちが悪いとはいえ、これを見るのはキツイな……」
ショックを受けた、がっかりした、くらいのことならば仕方ないと思えるのだが、このツイート一つから根も葉もない話を勝手に作り上げて叩いている様子を見るのは気分がいいものではない。
またSNSはこういった噂が広がりやすいようで、憶測が憶測を呼び、写真に写っているのはアイドルの○○ではないかという話が独り歩きをしてそのアイドルまでもが口汚く罵られているのを見た時は眩暈がした。
(それは俺だっつーの……なんて言えるわけないが)
濡れ衣を着せられたアイドルに心の中で謝りながら、玲はとにかく対策を立てなければと思い直した。
瀬名プロは小さな事務所で、また長らくこのような大きなスキャンダルに巻き込まれたことがなかったため、玲が一からすべきことを考える必要がある。
まずは当事者がしっかりしろよと思い横目で聖湖を見ると、頬杖をついてiPhoneの画面を眺めている。
「おい、自分が何やらかしたかわかって……」
「俺が悪いのはわかってるけど色々考えちゃうよねえ」
ぽつぽつと聖湖は話し始めた。
自分でも色々検索しながらネット上で自分の話題がどうなっているのかを見ていたようだ。
「ほら『聖湖 彼女』とかで検索するともうまとめとか作られてるの。まず彼女じゃなくて彼氏だからね」
「お前ふざけてる場合じゃ……」
「けど、俺のことめちゃくちゃに批難してるファンとめちゃくちゃに擁護してるファンがいて、ファン同士で対立してるのとか見るとほんと俺バカなことしたなって思う」
「聖湖……」
「『スキャンダルでも許すのが本当にファン』とか『金落としてるファンなら批難して当然』とかさあ、ファン同士でこういうこと言わせてるの俺だよ!?罪深すぎるよ!?」
聖湖は聖湖なりにファンの心中を思って反省をしているらしい。
こういう時に人の本性が出るものだが、行いは軽率でも聖湖の人の好さが垣間見えて玲はほっとした。
「騒ぎたいだけ、叩きたいだけで噂流してる人は放っとけばいいよ。ぶっちゃけ腹立つけどね。でも自分のファンには絶対にちゃんとしなくちゃいけない」
「……うん、そうだな」
しかし具体的にはどうすれば説明責任を果たせることになるのだろう。
そもそも説明といっても聖湖と玲が付き合っているのは事実なのだから、真実を話したところで絶対に傷つく人はいるはずなのだ。
瀬名プロの中で誰かこういった問題に詳しい人はいないだろうかと思案していると、はい、と手を挙げた人物がいた。
「玲くん、僕の話は参考になるかな」
「聖夜さん?」
「僕っていうか、僕と渚の話、だけれど」
聖夜がそう言うと、皆ああ、と納得した顔になった。
今では芸能界きってのおしどり夫婦として有名だが、結婚する前は若き天才舞台俳優と大人気女優の熱愛報道で持ちきりだったはずだ。
玲が瀬名家にやってきた時はすでに結婚していて聖湖と泉水も生まれていたので、二人の結婚前の話は玲もよく知らない。
「俺も父さんたちの話は生まれる前だしさすがに知らないなあ」
「ま、昔はこんな風にインターネットも普及してなかったけど、それでもね」
「ねー、すごかったわよね~」
いつのまにかやってきていた渚も聖夜の隣でにこにこ頷いている。
これは相当な数のファンが泣いただろうな、と玲は密かに思った。
「まず大事なのは、どんな対応をしてもショックを受ける人は必ずいるってことだ」
「……そうですね」
誰もが納得するような魔法の言葉はないということを肝に銘じて対応をすることが大事だと聖夜は言った。
「その上で少しアドバイスできることがあるとすれは、やっぱりちゃんとした情報を教えてほしいとみんな思ってるんじゃないかってことかな」
「なるほど」
「曖昧な情報が錯綜して憶測が飛び交うと、それがまた不安を煽るだろうから……それでも火のないところに煙を立たされるのが芸能かもしれないけれど」
聖夜の言葉に皆、耳を傾ける。
そして一斉に玲の方を見た。
「あの、何か……?」
「やっぱりねえ」
「あの子のファンは玲くんのこと知りたいんじゃないかしら」
「相楽さんも会見なんかで顔は出してるわけですし」
思わぬ展開に玲は顔をしかめる。
「やっぱりみんなそう思う?実は俺もそろそろみんなに玲を紹介したいと思ってたところなんだよね~!」
さっきまでの神妙な表情はどこへやら、聖湖はにこにこと玲に笑いかける。
「いや、普通に考えて無理でしょう?さすがにそこまでカミングアウトしたら大パニックですよ!?」
それはやりすぎだろうと慌てて玲が意見すると、背後からかわいらしい声が聞こえてきた。
「いや、大丈夫だと思うよ」
振り向くと、そこに立っていたのは泉水だった。




事務所が騒がしかったので、泉水はそれを聞きつけてやってきたようだった。
一応、泉水は聖湖と玲の関係を知っている。
なので何があったかすぐに把握できたらしい。
(泉水曰く、オタクにはよくあることだから、らしい)
そして部屋に入ってくるなり眼鏡を輝かせ滔々と持論を語り始めたのだった。
「まずカミングアウトはしなくていいと思う。ファンが知りたいのはそんなことじゃないんだよね。ていうかまず玲が男でよかったよね。お兄ちゃんのファンもオタクって多いと思うし、女の人との熱愛じゃなくて仲のいいマネージャーが相手だったってわかったら喜ぶ人多そうな気がする。ていうか『もしかしてあのマネージャーが……?』くらいでワクワクを掻き立てるようにするといいんじゃないかな。妄想できる余地を残しておくの。わかる?」
「い、泉水さん……?」
「別にお兄ちゃんの付き合ってる相手として玲をテレビに出したりしなくていいって話。玲は美人だしメディアに出ればファンの方で勝手にカップリングにしてくれるよ。あとは玲にナマモノ同人誌描かれる覚悟があるかどうかだね」
「スミマセン泉水さん……もはや用語がわかりません………」
「と、とにかく泉水が言いたいのは玲くんを『瀬名プロ名物マネージャー』みたいな感じでバラエティにだしたりすればいいってことかなと思うんだけど」
玲はまだ納得がいかない顔をしているが、それが一番穏当な案のようにも思える。
それでなくとも玲の美貌は業界でも有名で、テレビに出ないかというオファーは元々たくさんあるのだ。
あとは玲が腹をくくって自らメディアに顔を出す決心をするだけだ。
「仕方、ありませんね」
そう言って玲は深々と頭を下げた。
「しばらくご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いいたします」



ご迷惑を、と玲は言ったものの、実際にふたを開けてみれば迷惑どころの騒ぎではなかった。
決して悪い意味ではない。
むしろこちらが期待していた以上の効果が得られたのだった。
「だから言ったでしょ!」
玲が出演するバラエティを瀬名家のリビングで見ながら泉水がえっへんと胸を張った。
「オタクの道はオタクということ、ですか……」
「そーゆーこと!」
隣の玲本人は渋い顔をして自分の出ている番組を見ている。
最近では芸能人のマネージャーがバラエティに登場することは珍しくないため、あっさりと玲の出演は決まった。
玲の美貌に加え、あの大人気アーティスト・瀬名聖湖と長年の親交があるというのだから興味が注がれないはずがない。
さらに玲の生真面目過ぎる性格が視聴者にうけ、あっという間に人気者になってしまった。
「あ、出た出た」
テレビの画面を聖湖が指差す。
今見ている番組は、聖湖が玲のツイッターで誤爆をした時の話を披露した時のものだった。
「いやあ正直この収録まであのこと黙ってるのきつかったなあ」
結局あの誤爆騒動の直後は一切リアクションをとらなかった。
ツイートはしばらく控え、ブログの更新も無難な情報告知のみとした。
この対応に関してしらばっくれるつもりだという批難も多かったが、何か言いたくなるのを堪えてこの日を待ったのだった。
テレビの画面に大きくテロップが映し出される。
『SHOGOの美人マネージャー相楽の恥ずかしい秘密とは!?』
この文言を見て、玲は頭を抱えた。
「俺はどういう扱いなんだ!」
「いいじゃん、いいじゃん。おとなしく見よって」
聖湖が肩をたたいて宥める。
CM明けに、玲は誤爆ツイートの話を打ち明けた。
添付されていた半裸の写真とともに。
「何も言わずに削除しては騒動になると思ったのですが……、お騒がせして本当に申し訳ありませんでした」
玲がテレビの前の聖湖ファンに向かって謝罪をすると、聖湖の手元のiPhoneにひっきりなしに通知がやってきた。
「わー、さすが反応早いなあ」
数時間前の聖湖の番組告知ツイートへのリプライだ。
「大丈夫か?また疑われたりしてないか?」
「んー、平気っぽいよ。だってそのために玲、検証写真まで撮らされてたじゃん」
「うっ……それはまあ……」
「俺だって本当は玲のそんな写真晒したくなかったけどね!?でもそれが一番わかりやすいっていうから……」
「聖湖………って、誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ」
ソファーの上で膝を抱えて見せる聖湖を一瞬かわいいと思ってしまった玲だが、思い直して頭を小突く。
するとピロリロリン、と携帯カメラのシャッター音が鳴った。
「泉水さん?」
「お兄ちゃん、今この写真送るからツイッターにアップしなよ」
ほらほらと泉水に促されるまま『玲に怒られちゃった(笑)(´・ω・`)』というツイートとともに投稿すると、あっという間に5000リツイートを超えた。
「フフ……オタクはね……直接アピールするよりも匂わせる程度の情報を与えて妄想で補完させるんだよ……あっこれ俺と龍馬の時にも使えるかも……」
泉水はニヤニヤとしながらひとりごとを言った。




その後も玲は本業に差し支えのない程度にバラエティに顔を出すようになった。
相変わらず仕事が終わると聖湖が玲の部屋に来ることは多いが、事務所の人間である以上何も怪しまれない。
「でも今回のことでほんとに色々考えちゃったよ」
玲の部屋で二人でビールを飲みながら、聖湖がしみじみ言った。
「父さんは『かならずショックを受ける人はいる』って言ってたけど、それでもいつかはちゃんと玲とのこと発表したいって思ってるんだ。だからちゃんと誠実でいなくちゃなあって」
覚悟はあるけれど、自分のファンなら何でも受け入れてくれるよね、というほどお花畑な思考にまではなりきれないということらしい。
玲は一気にビールをあおると、聖湖に向き合って言った。
「その時は坊主にでもして誠意を見せればいいんじゃないのか。……俺も付き合ってやるから」
そう言って小さく笑うと、聖湖がぎゅうと抱きついてきた。
「俺、玲のそういうとこほんと好き……」
聖湖の温もりを感じながら、玲は聖湖と出会えてよかったと思った。
振り回されたり困らされたりするのは日常茶飯事だけれど、自分のことを大事に思ってくれて、自分も相手のことを大事にしたいと思えるのは奇跡と呼んでいいくらい幸せなことなのだ。
「聖湖」
なに、と返事をされる前に唇を奪う。
「どうしたの、珍しい」
「なんでもない」
ロクでもない半生を歩んできた自分だけど、いつかは大勢の人の前で聖湖の伴侶であると宣言してもいい日がくるだろうか。
玲はそんな夢を思い描き、聖湖の手をそっと握ったのだった。













PR
イベント



リンク
ログ倉庫
(別窓で開く)

ssとイラストの倉庫です。


通販はこちら
profile
HN:
じろぎ
性別:
女性
自己紹介:


成人です。

リンクの切り貼りはご自由にどうぞ。


twitter


pixiv
アーカイブ
ブログ内検索
 ・゚・。・ ゚・。・゚・ 。・゚・
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright © はくじょうそう All Rights Reserved
忍者ブログ / [PR]