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絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
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先日のプチオンリーで配布したコピー本の再録です。
トリチアの小学生の頃の話。

「続きを読む」からどうぞ。


拍手とメッセージありがとうございます。
お返事と通販の開始は来週させてください!

拍手[1回]


+ + + + + + + + + +
「それがねえ、千秋はまだ帰ってきてないのよ」
「そう、ですか」

ランドセルも置かないで……、と困ったような顔をしている吉野の母親にぺこりと一礼すると、吉野の家を出た。
外はざーざー降りの雨だ。
すでにびしょびしょになってしまったスニーカーで水溜まりを蹴りながら、俺はとりあえず自分の家に戻ることにした。

(吉野のやつ、どこに行ったんだ?)
雨雲のせいで暗くなり始めた空をにらみつけると、さらに雨足が強くなった気がした。
そういえば今日吉野は学校にちゃんと傘を持ってきていただろうか。
宿題も吉野のとっては多過ぎるくらい出されていたような気もする。
吉野に関する心配事が次から次へと浮かんで、思わず俺は舌打ちをした。
「……俺がこんなに心配してるの、お前絶対にわかってないだろ」
心の中で吉野に悪態をつくと、家から予備の傘をもう一本持って、吉野を探すべく家を飛び出した。



こんなにイライラするのは梅雨のせいだけじゃないと自分でもわかっている。
何の因果か幼なじみの男を好きになってしまった俺が悪いのだ。しかも奴はレンアイのレの字も頭にないような馬鹿で能天気ときた。

(小学生がこんな不毛な恋に悩まされて良いものだろうか)

相手のない問い掛けは、雨水といっしょに排水溝に流されていった。



吉野とは家が隣同士なおかげで、ほぼ生まれてからずっといっしょに過ごしてきた。
家族以外では一番長い時間を共有した相手だ。
はっきり言って、吉野のことなら何でも知っている。
好きな食べ物、好きな漫画、好きなテレビに好きな科目。
そんな風に吉野のことを把握しきっている俺のことを知っていて、吉野は何でも俺を頼るようになった。
小学校に入学して以来、吉野が俺に頼らずに宿題をやったことは両手で数えて余るくらいしかないんじゃないかと思う。

『トリー、今日お前ん家で宿題していーい?』
『今日は俺ん家に遊びに来いよ、トリ』
『昨日買った漫画、マジ面白いから学校終わったら貸してやるよ』

こうやって放課後は毎日吉野と過ごすのが俺の日常だった。
吉野はよく笑うし、何でもすぐにムキになるし、誰よりも俺のことを頼りにしてくれている。そんな吉野といっしょにいると退屈しなかった。
吉野と二人でバカな話で大笑いしたり、本気でゲームで競い合ったり、隙あらば宿題をサボろうとするのを叱り付けたり、忙しい毎日だ。

そんな毎日の中で、俺は吉野を好きになってしまった。



だいぶ昔のこと記憶があやふやだが、たぶん保育園の頃だ。
夏に吉野の家でビニールプールを出し、二人で散々はしゃぎまわった後に昼寝をしていた時のことだった。
遊び疲れた体に網戸から吹いてくる風が気持ちよくて、俺も吉野もぐっすり眠っていた。ふと目が覚めると、吉野が俺の手を握っていた。
「千秋……?」
そのままほどいてしまえばいいのに、俺は指が絡まるように手をつなぎ直してもう一度目をつぶった。
汗でちょっとしっとりしている吉野の手のぬくもりに指先がじんじん痺れる感覚は、大きくなった今でも忘れられない。

そうして小学校に入り国語を勉強して、本をたくさん読んで、俺は吉野のことを好きになってしまったのだと気付いた。
自分でも不思議なくらい驚きはなかった。
(なるほど、そういうことか)
体育の時間に吉野が俺以外の奴とペアを組んでいるのを見るとムカムカしたり、吉野にしがみつかれるとソワソワしたり。
そういう気持ちに全部納得がいく。
もちろん、男が男を好きになるなんておかしいことだとちゃんと知っている。
この気持ちを誰にも悟られてはいけないことも、即座に悟った。
驚きはなかったけれど、その代わり希望もなかった。
(大丈夫、吉野に気付かれなければいいだけだ)
吉野が知ったら気持ち悪がるかもしれない。恐がるかもしれない。
ならば、俺がすることは決まっている。

吉野には絶対に俺の気持ちを気付かれないようにする。
そうして、俺はずっと吉野のそばにいる。


そんな俺の決意など知らない吉野は、今日も無邪気に放課後はいっしょに遊ぼうと言ってきたのだった。



もしかしたらまだ学校にいるかも、と俺は小学校まで来てみた。
だけど、どの教室にも人がいる気配はない。職員室の灯りだけがついている。
こんな雨じゃ、みんな早々と自分の家に帰ってしまったんだろう。外で遊んでいるような人影は見当たらない。
吉野の居場所は学校ではないらしい。
がっくりと肩を落として、校舎の軒下で雨宿りをしながら、俺は吉野の行き先を考えた。
俺は今週は日直当番だった。だから吉野は先に帰ると言ったのだ。
だから俺は急いで日直の仕事を終わらせて、吉野の家に向かったというのに。
あいつは今日、なんて言っていた?
『じゃあトリ、俺は先に行ってるからな!』
数時間前に交わした会話が頭をよぎる。あいつは帰るとは言っていない。
先に行く、と言ったのだ。
「行くって、あいつはどこに……?」
吉野に関する知識を総動員して俺は推理した。
吉野が俺と行こうとした場所はどこなのか。

「あっ」

カエルが元気よく鳴いている学校の裏山を見て、俺はひらめいた。
おそらく吉野はあそこにいるはずだ。

慌てて傘をさして、裏山へと急ぐ。
思った通り、雨にだいぶ流されてはいるが吉野のものらしき足跡が見つかった。
あとはこれを辿るだけでいい。
「吉野!吉野ー!」
大声であいつの名前を呼びながら斜面を上っていると、どこからかこもったような声が聞こえてきた。
「吉野!?」
「トリー!」

ぽっかりと洞窟のようにあいた穴の中で、体育座りの吉野が手を振っていた。
「トリ!お前なら来てくれると思った!」


吉野に手招きされるままに、傘をたたんで俺もその中に入った。
子供なら二人並べるくらいの大きさの穴だ。
「……で、なんでお前はここにいるんだ」
嬉しそうに俺の隣に座っている吉野に尋ねた。
「連れてきてやるって言ったじゃん、俺」
「はあ?」
「学校の裏山に秘密基地っぽいところ見つけたから、今度いっしょに行こうって言っただろ」
そう言われればそんな会話をした気がする。
だけど、まさか自信満々で言い切られるとは思わなかった。
「雨降るのわかってるのに、どうして今日行くと思ったんだよ」
「だって、雨だと思わなかったんだから仕方ないじゃん」
確かに吉野の持ち物はランドセル一個だけで傘は持っていなかった。
やっぱり傘をもう一本持ってきてよかった、と俺はため息をついた。
黙って予備の傘を差し出してやれば、吉野はこれでもかと明るい顔をする。
「よかったー!ここ着いたら雨降ってきてどうしようかって思ってたんだよね。さすがトリ!さんきゅー!」
どういたしまして、とそっけなく答えた俺は、やっと吉野が無事なことに安心できた。

雨雲のせいではなく、雲の上の太陽が傾いたせいで本格的に空が暗くなり始めたので、俺たちは帰ることにした。
帰り道、二人分の傘があるのにも関わらず、吉野は渡した傘をさそうとはせず、俺の傘に無理矢理入ってきた。
そして右手には俺の貸した傘、左手には俺の右手をしっかりと握りしめて楽しそうに水溜まりを歩く。
おかげで俺は左手に持った傘を吉野が濡れないように無理な体勢でささないといけなくなったけど、吉野の手を離すことはできなかった。


久しぶりに吉野と手をつないだ。
いつまで吉野は俺と手をつないでくれるんだろうか。
きっと、大人になったらこうして吉野と手をつなぐことなんてないだろう。
その頃にはこのどうしようもない気持ちはおさまっているだろうか。

握った手に不自然に力が入ってしまわないように、最大限の注意を払いながら吉野を家まで送り届けた。







「吉野、雨止んだみたいだぞ」
ベッドに半裸で寝転んでいる吉野に声をかけた。
「どうする?飯でも食いに行くか?」
「うーん………」
吉野は腰をさすりながらちょっと考えたあと答えた。
「……あと三十分横にならせて」
「了解」
寝室のドアを閉め、引いていたリビングのカーテンを開けると、雨上がりの眩しい光が差し込んできた。


どうして昼間っからこんなことになっているかといえば、たまたまお互いの休みが重なったことに始まる。
天気がよければ二人で外出しようと思ったのだが、朝からあいにくの雨だったので家でDVDでも見ようかということになったのだ。
部屋を暗くして、ソファーに並んで座って映画を見ていたのだが、妙な方向に気分が盛り上がってしまい、昼間からコトに及んでしまった、というわけである。
吉野と付き合い始めてからの我慢のきかなさは自分でも呆れてしまうが、吉野の方もまんざらではなさそうなのでしょうがないだろう。


リビングで一人、こっそり持ち込んだ仕事の書類に目を通していると、のそのそと吉野が起きてきた。
いい加減にとめられたシャツのボタンは少々目の毒だ。
「出掛けられそうか」
「タクシーでなら」
だるそうに吉野が返事をした。
「経費じゃ落ちないぞ」
「ったりめーだろ」
いつものつまらない言い合いをしながら、吉野の顔をじっと見つめた。
「……何」
「いや、少し子供の頃のことを思い出してな」
「どうせまたロクでもないことだろーが」
「まあ、そうだな」

あの頃は大人になった俺たちがどうなるかなんてわからなかった。
だけど、現実は吉野はこうやって俺の全てを受け入れてくれる。気持ちも、欲望も、全部。

「ありがとう、吉野」
ぽつりとそうつぶやくと、吉野が口を尖らせた。
「誰がおごるって言った!」
どうやら飯の話だと勘違いしているらしい。
「いや、俺が出すからいいよ」
「べ、別におごらねーとも言ってないけどッ」
慌てて言い返す吉野が可愛くて、思わず吹き出した。


早とちりで言葉足らずで減らず口で、だけど世界で一番愛おしい俺の初恋の相手。
この気持ちがおさまるなんてありえない。昔よりも、もっとずっと好きになったような気すらする。

吉野に向かって手を差し伸べる。不思議そうな顔はされたけど、ためらわずに吉野はその手をとってくれた。そのまま引き寄せて、細い体を抱き込んだ。


もう二度と隠す必要のないこの気持ちは、雨上がりの空のように晴れ晴れとしていた。






END
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