絵とか文のBL2次創作サイト(純エゴ、トリチア、バクステの話が多いです)
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「お前はあいつの小説を読んだことはあるか」
「当然。つーかそろそろウチの戦力になってもらおっかな~って思ってたとこ」
ここでお前は読んだのか?などと聞いても詮無いことだ。
聞いたところで不機嫌な顔で黙るだけだろう。
それは春彦との長い付き合いの中で既に学んでいる。
春彦の方も、俺がそれ以上余計なことを言わないとわかっているのでこうやって無防備にぽろぽろこぼしてくるのだと思う。
俺以外の人間が聞いたらどのあたりが無防備だと突っ込むかもしれないが、基本的に宇佐見春彦という男は自分が考えていることを他者に知られることをよしとしていない。
心の中では思いっきり思考迷宮に入り込むくせに、それを他人には絶対に悟られたくない男だ。
とんだシャイボーイだねえと言ったら、宇宙人を見るような目で見られた。
春彦のこういう反応をしてくれるあたりも、わりと気に入っているところであるのだけど。
揃いも揃って外界との接触が極端に下手くそな兄弟がいたもんだとつくづく感心してしまう。
春彦の弟君であらせられる宇佐見秋彦の小説を初めて読んだとき、これは売れると思った。
出版社の取締役など、作品を売れるか売れないかという目線でしか見ていないのではないかと言われることも多い。
事実、その通りだ。
俺は文壇の人間でもなければ評論家でもない。
商売をしているのだ。
逆に言えば感性や教養などというものに惑わされて名作・駄作の判断ができない出版人は俺にとって失笑の対象でしかない。
作家の作品をベースにして、いかに面白い企画を展開していけるか。
そこに携わるのが編集者であり出版社なわけで、感動する作品が自然に売れるのであれば作家が屋台を引いて自分で売り歩けばいいだろう。
いわゆる七光りで出版業を動かしているけれど、合法的に人の感情を転がして金儲けをするこの商売を俺はとても気に入っている。
宇佐見秋彦の作品を丸川で展開していきたいと言った時、それを聞いていた女子社員にこう言われたことがある。
井坂さんでもあの小説を読んで感動したり泣いたりするんですか、と。
「俺がそんな男に見える?」
「いえ、見えません!」
あっさり笑い飛ばされたけれど、実は確かに感動はした。
あの、一人で部屋にこもって物語とばかり向き合っていた少年の世界観が、見事に時代の感情とシンクロしていた。
共感はしない。
泣いたりもしない。
だけど、感動した。
自己表現が苦手で他者との関わりを絶ってきた、繊細で傲慢な美少年。
どんな大人になることやら、と見守ってきたけれど、
蓋を開けてみればあいつが作り上げた世界観は、昔あんなにも嫌っていた世間の琴線のど真ん中を見事にぶち抜いていた。
そのひどく危うい世界を、消費者は美しいと思い込むだろう。
こいつの作品で出版界を一大ペテンにかけてやりたい。
俺の『感動』はそういう類のものだった。
小野寺出版は地道で堅実な売り方をしているが、ウチだったら、丸川だったら、いや、俺だったら他の同業者が呆気に取られるような企画を打ち上げられる。
背中にゾクゾクしたものが走った。
これだから、この商売はやめられない。
「お前は今の仕事が好きか?」
春彦の問い掛けはいつも唐突だ。
「好きだよ。面白い。七光りとか言われんのも大好き」
当然、と俺は答える。
不器用なこの友人は、俺が編集を手がけた本を一応毎回読んでくれてはいた。
もし今度ウチで秋彦の作品を出すことになったら、その時も読んでくれるのだろうか。
あの世界に触れて、こいつは大丈夫なのだろうか。
「まだ、早いかもな」
「?」
「いや、なんでも」
それでも俺は自分の商売をするだけなんだけどね。
本当に俺は友達想い過ぎるよな、と朝比奈に呟いたが、
「そう思っているのは、ご自分だけでしょう」
あっさりと否定されたので、俺は気分よく新しい企画を打ち上げる準備に取り掛かることができたのだった。
END
「当然。つーかそろそろウチの戦力になってもらおっかな~って思ってたとこ」
ここでお前は読んだのか?などと聞いても詮無いことだ。
聞いたところで不機嫌な顔で黙るだけだろう。
それは春彦との長い付き合いの中で既に学んでいる。
春彦の方も、俺がそれ以上余計なことを言わないとわかっているのでこうやって無防備にぽろぽろこぼしてくるのだと思う。
俺以外の人間が聞いたらどのあたりが無防備だと突っ込むかもしれないが、基本的に宇佐見春彦という男は自分が考えていることを他者に知られることをよしとしていない。
心の中では思いっきり思考迷宮に入り込むくせに、それを他人には絶対に悟られたくない男だ。
とんだシャイボーイだねえと言ったら、宇宙人を見るような目で見られた。
春彦のこういう反応をしてくれるあたりも、わりと気に入っているところであるのだけど。
揃いも揃って外界との接触が極端に下手くそな兄弟がいたもんだとつくづく感心してしまう。
春彦の弟君であらせられる宇佐見秋彦の小説を初めて読んだとき、これは売れると思った。
出版社の取締役など、作品を売れるか売れないかという目線でしか見ていないのではないかと言われることも多い。
事実、その通りだ。
俺は文壇の人間でもなければ評論家でもない。
商売をしているのだ。
逆に言えば感性や教養などというものに惑わされて名作・駄作の判断ができない出版人は俺にとって失笑の対象でしかない。
作家の作品をベースにして、いかに面白い企画を展開していけるか。
そこに携わるのが編集者であり出版社なわけで、感動する作品が自然に売れるのであれば作家が屋台を引いて自分で売り歩けばいいだろう。
いわゆる七光りで出版業を動かしているけれど、合法的に人の感情を転がして金儲けをするこの商売を俺はとても気に入っている。
宇佐見秋彦の作品を丸川で展開していきたいと言った時、それを聞いていた女子社員にこう言われたことがある。
井坂さんでもあの小説を読んで感動したり泣いたりするんですか、と。
「俺がそんな男に見える?」
「いえ、見えません!」
あっさり笑い飛ばされたけれど、実は確かに感動はした。
あの、一人で部屋にこもって物語とばかり向き合っていた少年の世界観が、見事に時代の感情とシンクロしていた。
共感はしない。
泣いたりもしない。
だけど、感動した。
自己表現が苦手で他者との関わりを絶ってきた、繊細で傲慢な美少年。
どんな大人になることやら、と見守ってきたけれど、
蓋を開けてみればあいつが作り上げた世界観は、昔あんなにも嫌っていた世間の琴線のど真ん中を見事にぶち抜いていた。
そのひどく危うい世界を、消費者は美しいと思い込むだろう。
こいつの作品で出版界を一大ペテンにかけてやりたい。
俺の『感動』はそういう類のものだった。
小野寺出版は地道で堅実な売り方をしているが、ウチだったら、丸川だったら、いや、俺だったら他の同業者が呆気に取られるような企画を打ち上げられる。
背中にゾクゾクしたものが走った。
これだから、この商売はやめられない。
「お前は今の仕事が好きか?」
春彦の問い掛けはいつも唐突だ。
「好きだよ。面白い。七光りとか言われんのも大好き」
当然、と俺は答える。
不器用なこの友人は、俺が編集を手がけた本を一応毎回読んでくれてはいた。
もし今度ウチで秋彦の作品を出すことになったら、その時も読んでくれるのだろうか。
あの世界に触れて、こいつは大丈夫なのだろうか。
「まだ、早いかもな」
「?」
「いや、なんでも」
それでも俺は自分の商売をするだけなんだけどね。
本当に俺は友達想い過ぎるよな、と朝比奈に呟いたが、
「そう思っているのは、ご自分だけでしょう」
あっさりと否定されたので、俺は気分よく新しい企画を打ち上げる準備に取り掛かることができたのだった。
END
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