劣等感と無神経

トリの自信のなさは柳瀬に対する劣等感によるものが大きいのかなーと思いました。
千秋をめぐって争ったら、トリは99％負けると思ってて、柳瀬は逆に99％勝てると思ってそう。
柳瀬に勝ち目がないと思ってたから言い争いのあとトリは無体に及んだんじゃないかと思うし、付き合ったあともたびたび自信をなくす。
そもそもトリが千秋に対する感情をはっきり自覚したのが中学の頃って言ってたけど、それって柳瀬があらわれたからじゃないですか？
今まではあまり深く考えずに千秋の一番仲のいい友人として側にいたけど、自分よりも千秋に相応しい（この表現が適当かはわかりませんが）人間が登場し、自分はその相手に嫉妬を覚えた。
そこで初めてトリは自分の感情の方向性がわかったんじゃないかなー。
千秋と気が合って趣味も合って絵も得意な柳瀬。
そんな柳瀬が千秋のことを自分と同じく好きになってしまったら、自分は到底かなわないんじゃないか。
そういうことをトリは考えてそうな気がします。

トリは自分の分を知ってるんですよ。
自分が千秋に対して何をしてやれて、何をしてやれないかを知ってるんです。
柳瀬は千秋に「羽鳥より俺の方がいいと思うよ」って言える。
トリは言えない。
自分が柳瀬の代わりにはなれないことを知ってるから。
千秋のために自分ができることだけを、精一杯している。

だからトリと柳瀬二人だけで争ってるの見たら、圧倒的に柳瀬が有利に見えるんじゃないかなあ。
まずお互いがそう思ってるからね。
でも千秋が選んだのはトリだった。
選んだっていうか、トリじゃなきゃダメだった。
どっちが優位だとか自信があるだとか関係なく、理屈じゃ説明できない部分で千秋はトリじゃなきゃダメだった。
柳瀬は99％トリに勝てると思ってたけど、残りの1％をどこかで予感してた気もします。
「なんで羽鳥なんだよ」っていうのも本心だけれど、
千秋が「よくわかんないけどトリじゃないとダメみたいなんだ」って言ったあとの、
「何がわかんないんだよ…お前は昔から羽鳥にべったりだったじゃねーか…」っていう台詞。
これ聞いた時に、ああ柳瀬もきっとわかってたんだろうなあって思いました。
ここの会話にトリと柳瀬の関係性がすごくよくあらわれてて大好きです。

端から見た力関係がトリ＜柳瀬だから、トリから『同情』なんていう言葉が出てくるんじゃないですかね。
優しい千秋がかわいそうな敗者を仕方なく受け入れてくれた、みたいなね。
でも千秋はそんなこと全然気にしてないじゃない。
むしろそのトリのコンプレックスこそ理解できないんじゃないかな？
単に俺はトリが好きなだけなんだよ！！っていうシンプルな感情を素直に受け取ることが、28年間悩み続けたトリにはけっこう難しいことだったのかもしれないね。
千秋のそういう単純なところは十分知ってたと思うけど、いざその素直な気持ちを自分にぶつけられると戸惑っちゃうんだよね。
トリはかわいいね。

なんていうか、千秋はびっくりするくらい人に優劣をつけないですよね。
まあたぶん自分が世間でもわりと最低部類のダメ人間だと思ってるからとかその程度の理由でしょうけど（…）。
だからトリの柳瀬に対する劣等感は一生わかんないと思うんだ。
でも、だからこそトリに対する気持ちは同情なんかじゃないんですよ。
何ができて何ができないとか、そういうの関係なしに単純にトリが好きなだけ。

そういう絶妙な噛み合わなさがあるからトリには千秋、千秋にはトリじゃないとだめなんだよな！
世間的に見たら千秋は超鈍感の超無神経だけど、これくらいの性格じゃないとトリの気持ちとコンプレックスを丸ごと受け入れたりできないんじゃないかなあと思った次第です。